【日本代表】前田遼一に見る日本人らしい「FWのエゴ」とは何か? (3ページ目)
本田圭佑、香川真司ら、2列目の選手にとっても、中央に居座っているFWよりは、前田のように、スペースをうまくつくってくれるFWのほうがバランスをとりやすいだろう。
前田はJリーグで2度、得点王を獲得。ワントップに求められる能力をほぼ十全に持っている。安定感があり、攻守の切り替えも速く、守備面の貢献度も高い。足元の技術、動きの質、ヘディング、シュート、ポストプレイの精度やフィジカルの強さなど、すべての面でJリーグでは図抜けた存在だ。また、ディフェンスラインとの駆け引きも含めて、いろんな攻撃のバリエーションを持っている。だからこそ、6月のW杯最終予選の3試合では、前田のところでボールが収まり、相手陣内で起点を作ることができていた。
ゴール前でのシュートテクニックも高く、何よりもゴールを決めるうえで最も重要な「落ち着き」がある。これはオシムさんが言っていたが、FWは『氷のような』冷静さがなくてはいけない。そしてそのためには、技術的な裏付けと自信が必要だ。前田の場合、今までの実績によって自信を深めていると思うし、その自信がゴール前での落ち着きにつながり、精神的な余裕が生まれることで、視野が広がり、さらにゴールの確率を高めることになる。
ワントップは相手DFからのプレッシャーが非常にきついポジションだけに、時間とスペースがない中で、ボールが来てから次のプレイを考えていたのでは遅い。予備動作で最善のポジションを取ることができなくてはいけないが、経験豊富な前田は、その精度が高い。
とくにサイドからのクロスへの入り方は絶妙で、ワンタッチゴールが多いFWだ。このワンタッチゴールを決められるということは、予備動作が非常にしっかりしているということであり、今どうすべきかを常に考えながら点を取るための準備ができているということでもある。
シュートはトーキックでも、ループでも何でもいい。要は結果としてゴールを決めるために、選択肢をたくさん持っている方がいいのだが、前田の場合、オーバーヘッドキックのような派手なシュートはほとんどない。つまり、そんな難しいキックを選択しなくてもゴールを決められる状況をつくりだせているということだ。これは、より多くのゴールを決めていくために重要な要素。いわゆるゴールゲッターは、オフザボールの準備で勝負をしている選手がほとんどだ。
今の日本代表は、香川に代表されるように、2列目の選手層が厚くなっているが、ワントップでも、世界のトップレベルでやっていける選手が増えてほしいところだ。現在Jリーグの得点ランキングトップの佐藤寿人はもちろん注目しているし、ハーフナー・マイクや李忠成、森本貴幸ら、前田の次の世代がさらに成長していけるかどうかにも注目したい。
著者プロフィール
福田正博 (ふくだ・まさひろ)
1966年12月27日生まれ。神奈川県出身。中央大学卒業後、1989年に三菱(現浦和レッズ)に入団。Jリーグスタート時から浦和の中心選手として活躍した「ミスター・レッズ」。1995年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初のJリーグ得点王。Jリーグ通算228試合、93得点。日本代表では、45試合で9ゴールを記録。2002年に現役引退後、解説者として各種メディアで活動。2008~10年は浦和のコーチも務めている。
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