田嶋幸三から宮本恒靖新会長へ「院政を敷くつもりは一切ない」 やり残したことは「強いて言えば...」 (2ページ目)

  • 戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei

【何でもっと早く動かなかったのだろう】

 執務室には自身の人生訓も飾っていた。『無私』である。

「何かを決断する時に、個人的な感情を挟んだり、私利私欲を考えたりしたことは一切ありません。日本サッカーにプラスになるかどうかだけを考えて、決断を下してきました。だから、無私なのです」

 在任期間にやり残したことは──との質問には「ありません」と即答する。「やりきれなかったことはありますが、後悔はありません」と重ねた。

田嶋幸三JFA前会長の執務室に飾られた『無私』の二文字 photo by Sano Miki田嶋幸三JFA前会長の執務室に飾られた『無私』の二文字 photo by Sano Mikiこの記事に関連する写真を見る「この8年間は代表チームを強くすること、魅力あるチームにすることを絶えず考えて、いつも危機感を抱いてきました。だからハリルホジッチさんに交代してもらったし、森保監督をサポートしてきました」

 そこまで話すと、田嶋は「自分の会長就任前に建設が決まったことですが」と前置きをして、2020年に稼働したJFA夢フィールド(千葉市)に触れた。

「夢フィールドがなかったら、カタールワールドカップ予選は突破できなかったと思う。ヨーロッパのクラブでは当たり前にあるトレーニングジム、メディカルルーム、サウナなどの施設を備えていて、練習に集中できるしリラックスもできると、選手たちにとても好評でした。先日のパリ五輪最終予選に臨んだなでしこジャパンも、夢フィールドでしっかりと準備をしてくれました」

 各カテゴリーの代表スタッフは、チームの活動期間外の時間に夢フィールドへ足を運ぶ。日本代表監督の森保一やU-23日本代表監督の大岩剛、なでしこジャパン監督の池田太らが、自チームの現況や日本サッカーについて意見を交換しているのだ。

「男女のあらゆるカテゴリーの監督が、活動のない時期は同じ空間でデスクワークなどをしている。パッとコミュニケーションが取れるのはプライスレスの価値。まさに強化の拠点となっていて、夢フィールドを造って本当によかったと思います」

 代表選手たちを喜ばせたものが、もうひとつある。「何でもっと早く動かなかったのだろう」と、田嶋は小さく頭を下げた。

「2021年9月から、代表チームが移動時に使用するバスを運用するようにしました。これが選手たちに喜ばれました。ヨーロッパのクラブは自前のバスで移動していて、Jリーグのクラブでも自前のバスが増えています。国際大会でもラッピングされた専用のバスが各国代表に用意されますが、日本代表にはそれまで専用のバスがなかった。これはいけないということで運用したところ、選手たちからこれでまたさらに誇りを持って戦えます、ありがとうございます、と言われました」

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