トルシエ監督に聞いた――ベトナム代表に日本人選手をひとり連れていけるとしたら誰にするか? (3ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・構成 text by Shino Yukihiko
  • フローラン・ダバディ●通訳

【ベトナム代表にひとり連れて行けるとしたら、久保建英】

――ところで、大会中に伊東純也選手が性加害の容疑で刑事告訴され、帰国することになりました。しかし、所属クラブでは推定無罪を信じるということで普通にプレーしています。このクラブと日本サッカー協会の判断のギャップについてどう感じますか。また、トルシエ監督が日本代表の指揮官だったとしら、「伊東純也を戻すな」と協会と戦いましたか。

トルシエ クラブと代表で伊東選手に対しての姿勢が違うことを私は理解できます。代表チームというのは、日本国民や日本という国の価値観を体現する機関だからです。推定無罪であったとしても、その国の価値観を守らなかった可能性があるなかで、後日もし有罪になった時はクラブ以上に代表で出場させたことは問題になると思います。

 同時にフランスでは推定無罪という概念がデモクラシーの根本にあるので、クラブが彼を信頼し続けるという判断も理解できます。だから、両方正しいと思います。伊東選手は無念だったと思うけれど、日本のあの判断は避けられず、仕方のないことだったと思います。

――もし日本代表の選手をひとりだけベトナムに連れていけるとしたら、誰を選びますか。

トルシエ 久保建英選手ですね。彼は日本サッカーを変えるほどの選手だと思います。なぜなら、彼は現代サッカーに求められるすべてを持っているからです。

 激しいプレスを回避するテクニック、高いインテリジェンスと自己管理能力、身体は少し小さいかもしれないけれど、すばらしい瞬発力を持っています。それから、前のポジションであればどこでもこなせるポリバレントな選手でもあります。レアル・ソシエダでは、守備時にブロックを作る時に労を惜しむこともしません。

 日本には彼と同じレベルの才能が他にもひとり、ふたりいるかもしれません。それでも久保選手を選ぶのは、小さな頃からスペインで過ごしたことで身につけたメンタリティがあるからです。

 外国人特有のエゴイズム、自分で責任を取らなければいけない場面でちゃんと責任を持ってシュートまで持っていくことができる強いメンタルと判断力。それが高いプレッシャーのなかでも潰されず、他の選手よりも早く状況が見える戦術眼がすばらしいと思います。

 それから、スポーツの枠を越えて自己を表現できる人間性を持っていること。これも、もしかしたらふたつの文化の間で育まれたものかもしれません。いずれにしても、日本サッカーのリーダーとなるすべての資質を持った選手だと思います。

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