トルシエ監督に聞いた――ベトナム代表に日本人選手をひとり連れていけるとしたら誰にするか? (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・構成 text by Shino Yukihiko
  • フローラン・ダバディ●通訳

【無意識に気が緩むところを監督がマネジメントする必要がある】

――確かに日本は、特に敗れたイラク戦やイラン戦では失点して混乱していたと思います。チームでの約束事や監督の介入がもっと必要だと声を挙げた選手もいました。トルシエ監督は以前、日本人のメンタリティを信号に例えたことがありました。日本人はたとえ車が来ていなかったとしても、信号が赤ならば誰も渡らないと。そういったことを考慮して、多くの約束事を設けたほうが日本は機能すると思いますか。

トルシエ 20年前に私が率いた日本代表は約束事がすべてでした。その理由は、海外とのチームとの差があったなかで、組織力を高めることでその差を少しでも埋められると思ったからです。あの時は組織力が80%、個人のタレント力は20%でいいと思っていました。

 あの頃は95%の選手が国内でプレーしていて、彼らは私の指示を真面目に聞いてボールのない時は懸命にプレッシングをこなしてくれました。コミュニケーションも本当に模範的で、自己管理もすばらしかったです。

 当時と比べて、今の選手のプロ意識が低くなったわけではありません。むしろ、より高くなったと思います。

 欧州のクラブでプレーしていれば、そうした約束事を知らないわけがありません。90分間ハードワークし続け、プレッシングをさぼることは許されないし、それができなければ使ってもらえないからです。20年前と比べれば、(今の選手のほうが)はるかに厳しい環境にいると思います。

 ただ、繰り返しになりますが、(5大リーグでプレーしている選手たちは)どうしても無意識に気が緩んでしまう部分があったと思います。そこで、自分自身にプレッシャーをかけることは難しいわけです。その点については、監督がやらなければいけません。

――監督のマネジメントがもっと必要だったと。

トルシエ うまくいかない時に(チームの)バランスを保つことは非常に難しいものです。それでも、たとえアジアレベルであっても、個人よりも組織力のほうがどんな局面でも勝るということ。そのことを忘れてはいけません。

 つまり、もう一度、その基本に立ち返ってハードワークすること。それによって、個人の力も自然と表れるから心配することはない――そう伝えることが(指揮官には)必要だったかもしれません。

 日本の選手たちは、意外と不安に思っていることがたくさんあったと思います。クラブとは舞台が全然違って、慣れていない部分もあったでしょう。彼らは精神的に不安定になりやすいもので、周りがそうした環境を整えてあげることは大事なことだと思います。

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