なでしこジャパンのライジングスター 藤野あおばが駆け上がる「エース」への階段 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text&photo by Hayakusa Noriko

 なでしこジャパンに馴染めば馴染むほど、藤野からは当初の積極性が影を潜め、「どうにかチームに貢献しよう」といった想いから、周囲に気を遣うような、考えすぎるプレーが出始めていた。

 だが、大会前に宣言したとおり、藤野にとって特別な世界の舞台に立ったことで、本来の思いきりのよさが復活。それはまた、彼女にとっては大きなチャレンジでもあった。

「もっと言えば、準々決勝のスウェーデン戦での最後のFK。(1点ビハインドの状況で)"1点"が重要な場面......。ふつうだったら、『自分は蹴らないです』って言っていると思います。

 あの時は(長谷川)唯さん、(遠藤)純さん、そして自分の3人がキッカーと決まっていて、(ゴールに)近かったら自分が蹴ることになっていましたが、あの状況では誰もが唯さんが蹴ると思っていたはずですし。

 でも、唯さんが『いける?』って聞いてくれた時には、『はい』と言っていました。直接FKを決めるための練習をずっとしてきたわけでもないし、そもそも(それまでに)蹴る機会もなかったんですが、あの時は『蹴りたい』って思ったんです」

 試合を振り出しに戻すビッグチャンスだった。ニュージーランドの地元ファンからもニッポンコールが沸き起こるほど、注目を集めた場面。だが、彼女から放たれたFKは、無情にもバーを叩いた。

 結果、日本は準々決勝敗退に終わったが、この一本が藤野のさらなる飛躍、この舞台へと引き戻す原動力になるに違いない。ニュージーランドでの激動の1カ月は、藤野を変えた。

「ワールドカップに行って、技術うんぬんとかはぜんぜんダメだったと思います。でも、あそこに立つには自分ひとりじゃ絶対に無理だった。家族が現地まで見に来てくれたり、あんなビハインドの場面、(さらに)上まで行けるかどうかっていう状況のところで、FKを蹴らせてくれた唯さんもそうだし......。

 だから、もっと"表現"したい。それほどの想いを(周囲が)自分に注いでくれたっていうことを強く感じましたから。それに応えるためにも、点を決めたい、勝ちたいっていう想いが強まりました」

 大会前は、周りの先輩たちに対して「こうしたほうがよかったですか?」とコミュニケーションを取るスタイルだった藤野。自身の感情を出すことに抵抗があったが、今は自らの働きによって勝利を引き寄せることを、誰に憚ることなく、全力で欲している。

「画期的な変化です(笑)」と言って笑う藤野の変貌は頼もしい限りだ。

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