上田綺世が持つ日本ストライカー史上類を見ない能力とは 「思考の鬼」が化ける時 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【「論理」を積み重ねて「直観」へ】

 一方、柳沢敦、前田遼一、大迫勇也は非常にテクニカルでビジョンに長けたストライカーに類別できる。前線でボールを収め、味方を活かしながら、自分も得点のポイントに入る。彼ら自身がチームの戦い方を決定づける"前線のプレーメイカー"にもなる一方、テクニカルな面が強く出ると、得点力の物足りなさから、ストライカー以外のポジションを与えられてしまい、不遇をかこつこともある。

 そして岡崎慎司は、戦術的センスが日本サッカー史上、最も高いストライカーと言える。本来、ストライカーはゴールの近くでプレーして得点を増やすものだが、彼の場合はサイドの大外にいても、得点を増やせた。それは「泥臭い」「ごっつぁんゴール」とも形容されたが、戦術的な聡明さの産物だった。バルセロナ時代のスペイン代表ペドロ、ダビド・ビジャも、このタイプだった。

 他にも高さやスピードを基調にするストライカーはいたが、上田は、どのタイプにも当てはまらない。

 あえて言えば大久保らに近いが、アプローチは逆である。あくまで論理的に積み重ね、本能的にゴールを決めるところにたどり着こうとしている。"思考の鬼"と言うのだろうか。そこまでテクニカルな選手ではないが、考えることによって、視野も広がってポストプレーなどは改善が見られる。また、ゴールに向かう動きを洗練させることで、周りにスペースを使わせるなど、連係が深まり、戦術面の成熟も見られる。海を渡っていろいろなタイプの選手と組んだ恩恵だろうか。

 ミャンマー戦で南野拓実、堂安律から受けたパスは極上だったが、上田はそれにありつくため、何度もロジカルなポジションを取っていた。いくつもの捨てられた動きの果てにつかんだ瞬間だった。

 常にチームとリンクしていた。たとえば鎌田大地の得点シーンも、上田がボールを受ける態勢を作ることによって敵をふたり以上引きつけたことで、鎌田はフリーでミドルを打てたのだ。

「頼られる存在でなければならないし、そのためには味方を頼れないといけない」

 ストライカーとは何者か、という問いに上田は明快に答えていた。

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