W杯アジア2次予選にオールスターを招集する前時代性 ミャンマーに全力で立ち向かう必要はあるのか? (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【この強行軍で選手が調子を落とせば...】

 メンバー発表会見の冒頭から、それについての質問が出たにもかかわらず、森保監督は関係のない話をした。問題意識の欠片もなく、誠実とは言い難かった。次の質問者が、似たような質問をかぶせるように聞くと、ようやく「いろいろ考えた末の判断である」と口にしたが、到底納得できる受け答えではなかった。

 口を突いて出たのは、アジア2次予選を戦う大変さだった。

「ミャンマーには前回(2022年カタールW杯アジア2次予選)、国内では10点差で勝ったがアウェーでは2点しか取れなかった」

 それを大変と言えば、世の中のたいていの出来事は大変だ。残る2カ国(シリア、北朝鮮)も、同様に「難しい相手だ」と森保監督は続けたが、日本がこのなかに入って3着に沈む可能性はどれほどあるというのか。もしここで敗退したら、日本代表は2年間ぐらい活動を停止し、謹慎したほうがいい。

 森保監督はザックジャパン時代の3次予選を引き合いに出し「あの時は確か2敗している」と述べている(敗れた相手は北朝鮮、ウズベキスタン)。だがその2011年当時、日本人の海外組はわずか数人に限られていた。26人中22人、フィールドプレーヤー23人中21人が海外組で占められる現在とは、さらに言うならば欧州カップ戦を戦う海外組が14人を数える現在とは、状況が決定的に違う。

 欧州のカップ戦を戦う選手をアジア2次予選に招集することの是非を問うているにもかかわらず、論理をすり替えて10数年前の昔話を引き合いに出し、「大変だ」と言う。"ご飯論法"と言われる国会答弁を聞かされているかのようだ。記者会見という限られた時間で、質問に簡潔に答えようとする姿勢にも欠けていた。

 残念である。これを聞いた選手はどう思うか。森保監督に全幅の信頼を寄せることができるか。この強行軍が原因で調子を崩せば、次に呼ばれる可能性は減る。代表監督と選手の関係はまさに強者対弱者である。弱者の信頼を得たいならば、強者は丁寧に説明する必要がある。森保監督は、記者会見に集まった記者たちを代表候補選手に見立てて話す必要があったのではないか。

 W杯出場アジア枠は今回、4.5から8.5にほぼ倍増した。ミャンマー、シリア、北朝鮮と戦う2次予選で2位以内に入り、最終的に8.5番目までに入る可能性はどれほどか。繰り返すが、落選の可能性はほぼ皆無だ。実力と枠の関係を見れば、日本は世界で最も緩い環境に身を置いていると断言できる。

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