日本代表、ドイツ戦の勝因は何か? 作戦変更は本当に「賢く、したたか」だったのか (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 中島大介●撮影 photo by Nakashima Daisuke

【なぜブレーキを踏んだのか】

 しかも、ドイツの右SBヨシュア・キミッヒはマイボールに転じると、マンチェスター・シティのジョン・ストーンズよろしく、真ん中に入り守備的MFに近いポジションを取る。日本の右サイド対ドイツの左サイドの数的な関係で、日本は優位に立っていたのである。ドイツの右サイドはむしろ狙い目だったのだ。

 にもかかわらず、森保監督は後半頭から、3バックにはけっして見えない5バックを選択した。後半14分、鎌田を下げ谷口彰悟を投入するまで、三笘はウイングバック役を演じた。日本の切り札を低い位置に据えたのである。これを愚策と言わずなんと言おう。ドイツがサネをウイングバックに下げれば日本はホッとするはずなのだ。

 後半、日本の5バックが鮮明になるとドイツはボール支配率を高めていった。攻めるドイツ。引いて守る日本。ピッチには対照的な図が描かれた。すなわち試合は噛み合わなくなった。斬るか斬られるかの好勝負を絶好の環境から観戦する喜びに浸った前半とはうって変わり、試合は退屈になっていく。

 試合後、森保監督が述べた弁に従えば「賢く、したたかに戦った」ことになる。会見場のひな壇で、森保監督にしては珍しく大きな声でハッキリと自画自賛したが、筆者はその意見にまるで賛同しない。それが世界のスタンダードではないからだ。

 前半、あれだけいいサッカーをしていながら、なぜ監督はブレーキを踏もうとしたのか。それは常道ではない。大胆すぎる作戦変更と言うべきである。森保監督には、勝ちたい気持ちが強くなると、引いて構えようとする癖がある。高い位置からプレスをかけようとする攻撃的サッカーを、究極的には信じていないからだろう。

 ドイツは結局、引いて守った日本を崩せなかったわけだが、それは紙一重の結果だったと見る。自らのペースを放棄するこの上なく危ない作戦だと考える。

 結果的に日本は後半の追加タイムに、相手のミス絡みから浅野拓磨、田中碧が立て続けにゴールを奪い4-1というスコアで勝利した。日本は大勝し、ドイツは大敗した。だが一歩間違えばスコアは変わっていた。今回はうまくいったが、次回、うまくいく保証はない。むしろ危ないと踏む。

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