なぜ三笘薫のドリブルは止められないのか 0.5歩の差を生む「動的柔軟性」をフィジカルトレーナーが指摘 (3ページ目)

  • Text by Sportiva
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

【優れている筋肉は?】

――特に発達していそうな筋肉はありますか?

吉原 お尻、臀部(でんぶ)周辺の筋肉はすさまじいと思いますよ。特に、骨盤の動きを調整する中臀筋(ちゅうでんきん)が優れているんじゃないかと。その筋肉に、腰やわき腹など周囲の筋肉も連動することで、すさまじい反発力を生み出しているんだと思います。

 サッカーではインサイドキックをよく使うので、O脚気味の選手が多い傾向にあります。そのような選手の中臀筋は外に開いて硬くなることがあり、強い反発力が生まれにくくなります。一方、三笘選手の中臀筋は柔軟性があって正面を向いており、伸縮の幅が大きいのではないかと思います。だから身体の軸をぶらすことなく強い力を発揮できているんでしょう。

 三笘選手は足のアウトサイドを使ってプレーすることが多いですね。ドリブルする時も、インサイドを使うよりスピードを出すことができますが、そういったプレースタイルも中臀筋は柔軟性に影響しているかもしれません。

――先ほど「重心が高い」という話がありましたが、相手DFから身体を当てられることもあるサッカーだと、バランスが崩れるリスクが高まりませんか?

吉原 世界トップレベルの選手の対決となれば、どんな選手であっても、勢いよくDFに身体を当てられたら絶対にバランスは崩れます。しかし三笘選手は、その衝撃もうまくエネルギーに変えている。横から身体を当たられた場合、それに耐えるのではなく、その反対方向に自分の身体を加速させているんです。

 どんな選手でもできるわけでなはなく、三笘選手のように柔軟かつ弾力がある筋肉があってこそ。元ブラジル代表のロナウジーニョさんも、自分が得意な"当たる位置"を理解していたのを思い出します。相手DFが突っ込んでくると身体をその位置に移動させ、衝撃の力を利用してプレーしていました。

――相手DFからすると、"すかされている"感じでしょうか?

吉原 そうだと思いますよ。三笘選手に身体を当てにいったDFは、タイミングがズレて逆にバランスを崩し、体力を消耗することが多いと思います。そういったことが続くとフラストレーションが溜まり、メンタルも崩れやすくなりますね。

 三笘選手の身体が常にリラックスしている状態であることも大きいと思います。特に日本人選手に多いのは、「力を抜こう」と頑張ってしまい、逆に動きが硬くなってしまうこと。私がアメリカでトレーニングの理論を学んだ際にも驚きましたが、あちらのアスリートには「リラックス=もともと力が入っていない状態」という認識がある。そういった意味でのリラックスも三笘選手はできていて、必要な時にだけ力を入れています。

 ここまで話してきたように、三笘選手のドリブルはさまざまな能力の高さが可能にしているものだと思います。

(後編:三笘薫の高速ドリブルを可能にするトレーニング法を予想 スピードが匹敵する「元日本代表」の名前も挙げた>>)

【プロフィール】
吉原 剛(よしはら・たけし)

1973年福岡県生まれ。九州共立大学八幡西高等学校(現自由ヶ丘高等学校)卒。会社員を経て渡米し「ムーブメント」トレーニングを学ぶ。帰国後、身体の動きの改善を中心とした処方トレーニングを提唱し、独自のライセンス制度を発行している。さまざまな日本のプロアスリートの指導のほか、台湾プロ野球選手のパーソナルトレーニングも担当。早期回復を促す施術家でもある。アスリートワイズパフォーマンス代表。ムーブメントワークアウト協会代表理事。日本スポーツ協会スポーツプログラマー。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る