カタールW杯現地観戦のカカロニすがやがサポーターの熱狂を語る。「あれだけスタジアムが一体となった日本コールは記憶にない」 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

【スタジアムを出て街を歩くと、ヒーローだった】

 終盤は正直、内容がどうとかよくわかっていなかったです。あのスタジアムは陸上のトラックがあってスタンドとピッチが遠く、見づらいのもありましたけど、そんなことより、もう酸欠になりながらひたすら限界まで声を出すのに必死でした。

 試合終了が刻一刻と迫ってきても、やっぱりあのベルギー戦があったから最後の1秒まで油断できないと、みんなが思っていました。普通、試合終了の瞬間の動画をスマホで撮る人とかが出てくるものですけど、あの時は誰一人スマホを出さずに、ホイッスルが鳴る瞬間まで声を出し続けていました。

 僕の周りはたまたま清水エスパルスサポーターが多くて、今シーズンの清水は散々アディショナルタイムにやられてきたので、とくに緊張感が半端じゃなかった(苦笑)。

 終了のホイッスルが鳴った瞬間は、月並みですけど最高でした。スタジアムで初めて会ったような人とみんなで抱き合って、これ以上ないくらい歓喜して。あんなにスタジアムで喜べたのは、コロナ禍で久しくできなかったことでもあったので余計に格別でした。

 みんな、あのベルギー戦以上にいい試合を日本代表で見られることはないだろうなと感じていたと思うんです。でもそれを次のW杯の試合で更新してくるなんて、思いもしなかった。

 それと、カタールまでの航空券がすごく高くて、みんな気が遠くなるようなトランジットを経て来ていて。あんな苦労してまで見に来ていたから、勝った時の感動の爆発はよりすごかったと思います。

 スタジアムを出て街を歩くと、もう僕たちはヒーローでした。まるで僕たちがプレーしたかのようにちやほやされて、1杯1900円もするビールを外国人たちがご馳走してくれるんです。それでみんなが「おめでとう!」「よくドイツに勝ったな!」と声をかけてくれて、日本人とサウジアラビア人は街のどこを歩いても英雄扱いでした。

 ただ、そんな扱いもコスタリカ戦まで。試合会場のアフメド・ビン・アリー・スタジアムに着いても、僕らにはどこかフワフワした空気感みたいなものがありました。あれだけの大勝利のあとなので、仕方ないと思います。

 そんなサポーターの空気感が勝敗に影響したとは思わないですけど、僕らが選手だったら負けるのはこういう時なんだろうなと。そんな状態だから、コスタリカ戦のスタンドをドイツ戦のような空気に持っていくことはできませんでした。

 自然と応援の声が溢れてきたドイツ戦とは違って、どこか使命感で声を出さなきゃいけない。そんな空気がありました。日本に期待して来ていた中立な観客たちも、地味な試合展開だったのもあって、ドイツ戦のようなボルテージにまでは全然盛り上がりません。

 失点しても必死に声を出してはいましたけど、燃え尽きた負け方ではなかったですね。そんな結果にみんな打ちひしがれて、試合後に「ファンフェスタ会場でスペイン対ドイツをみんなで見よう」と話していたんですけど、結局誰も来ませんでした。

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