なでしこGK海堀あゆみ、引退の理由を語る(前編)「信条に反することはできない」 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 もともとDFとしてプレーしていた海堀がGKへ転向したのは、一度離れていたサッカーに戻ってきた高校3年生のとき。フィールドでプレーしていた頃、ミスをGKにカバーしてもらっていたことを感じていた。だからこそ、GKとしてピッチに立ったときに"味方のミスをミスにしないプレー"をしたいという思いが生まれた。これは引退を決断するその瞬間まで信条として彼女を支え続けることになる。

 2012年、海堀はプロ契約を果たす。所属するINAC神戸レオネッサは強豪であり続けるために選手の契約はシビアだ。けれど契約が更新されれば、向こう1年は恵まれたサッカー環境が保証される。これまでに何人もの仲間がチームを去るのを見てきた海堀にとって、契約に揺れる皇后杯前はいつも自問自答する時期でもあった。

「1年契約だったので、毎年1度、皇后杯前に"来年1年、自分は本当に戦えるか?"と自分と向き合ってきました。したくてもできなかった仲間もいる。言い訳をしたくないし、甘えを持ちたくなかった。自分の中でのプロ像っていうのがあって、あえてプレッシャーをかけるのは、プロになって自分で変えたところでもあります」

 昨シーズンも例年通りに自問自答をした。そこで、いつもとは異なる感情が現れたのだ。

「今までだったら、もう1本頑張れていたところが頑張れなくなり、気持ちよく頑張れていたところが、耐えられていたところが、しんどいって思ってしまう」

 ステップアップのために、あふれ出ていた日々のアイデアは消え、追い詰められている自分に気づく。これまではどんなスランプに陥っても、先のイメージができていた。しかし、何も浮かんでこない。初めての出来事だった。

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