江川卓から放った1本のホームランで人生激変 宮崎実業の石淵国博はドラフト7位で広島に指名された

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

連載 怪物・江川卓伝〜いざ大学受験へ(前編)

 夏の甲子園大会が終わっても、"江川狂騒曲"は続いた。当然のごとく高校日本代表に選ばれた江川卓は、9月1日からの韓国遠征のために合同練習に参加すると、これまで味わったことのない清々しい時間を過ごした。

 作新学院では入学すると同時に注目を浴び続け、周囲に気を遣いながらプレーしたこともあった。だが、全国から選りすぐりの精鋭が集まる日本代表では、江川ひとりだけにスポットライトが当たらない。高校野球をやって、初めてリラックスできた瞬間だった。

高校卒業後の進路について、プロには行かずに大学進学を表明した江川卓 photo by Sankei Visual高校卒業後の進路について、プロには行かずに大学進学を表明した江川卓 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る のちに法政大で一緒にプレーすることになる静岡高の植松精一(元阪神)が、うれしそうに当時を振り返る。

「当初の予定では遠征先がハワイだったらしいんだけど、いろいろな都合により韓国になったそうです。ハワイに行けると思って喜んでいたヤツもいたみたいです。韓国では転々と遠征して、最後はシティーホテルではなく、ちょっと怪しいホテルに泊まることになり、そこで江川と同室でした。風呂場とかトイレの電灯がピンクで、おまけにベッドは大きいのがひとつしかない。お互い距離をとってよそよそしく寝ました(笑)。そこから仲良くなって、帰国したら静岡にも遊びに来たりしました」

 もともと人懐っこい江川が、高校日本代表の選手たちと打ち解けるのに時間はかからなかった。

【高校時代に許した4本のホームラン】

 じつはこの韓国遠征で、江川はホームランを打たれている。韓国選抜との第1戦の5回にソロホームランを打たれ、6回にも四球、ヒットで1点を失い、1対2で敗れている。ただ試合には敗れたが、江川は15三振を奪うなど、韓国打線を圧倒。打者に向かって伸び上がってくるストレートは、ソウル市民を驚愕させた。

 高校時代の江川は、公式戦でホームランを1本も打たれていないが、練習試合では3本許している。1本目は1年秋の早稲田実業・阿部功、2本目は2年春の丸子実業(現・丸子修学館)・小宮山善和、そして3本目は高校3年センバツ後の招待試合での宮崎実業(現・日章学園)・石淵国博だ。

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