斎藤佑樹は623日ぶり勝利に「うれしいです......いや、うれしくはないですけど、すいませんでした」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 僕、入団した直後に大渕(隆、現在のGM補佐兼スカウト部長)さんから「近年のプロ野球選手はヒーローインタビューでみんなが同じことを言う、勝ったらありがとうございます、ファンのみなさんのおかげです、これからも頑張ります......それって本当にファンが求めていることだろうか」って言われたことがありました。

 なるほどと思って、お立ち台というのは選手のパーソナリティを思う存分、発揮できる場所なんだ、斎藤佑樹だからこそ発信できることを話していこうと思ったことがあったんです。でもケガをして勝てない時期が続いて、何かを怖がってしまったのか、自分の発言におびえるようになっていました。お立ち台でも当たり障りのないことを言ったほうがいいのかなと......だからあの時の「うれしくない、すいません」は、そういう感じが出た言葉だったのかもしれません。

 たぶん、いちいち揚げ足を取られることに辟易していたんでしょうね。僕はずっと何かイヤなことを言われても「だから何だよ」と突っぱねられていたのに、そういうメンタリティではなくなっていたんです。斎藤佑樹らしいことを言わなきゃということに目が行かなくなって、自分なりの発信にまで気を遣えなくなっていたと思うんです。

「うれしいです」と言った瞬間、「1勝したくらいで喜んでる場合かよ」みたいな声が聞こえたような気がして、「いや、うれしくないです」と言ってしまう。もちろん、素直に言えばメチャクチャうれしいんですよ。やっと勝てたんですから、うれしいに決まっているじゃないですか。しかも新たなピッチングスタイルを見つけて、この先はこれで勝負していこうとようやく思えたところに結果がついてきたんですから......。

 でも、チームからすれば優勝するために必要な80の勝ちのうちのひとつに過ぎません。僕もそう思ったし、実際にそう思っている人もたくさんいたと思います。だから思わず「すいません」と言ってしまった。どこかにまだ"斎藤佑樹"を背負っている自分がいて、ならば特別な発信をしなきゃならないという想いと、もうそんなことを気にするのはやめたいという自分が、行ったり来たりしていたのかな。

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