侍ジャパンを世界一へと導いた「言葉なき二刀流采配」 なぜ栗山監督は大谷翔平を理想の形で使いきれたのか【WBC2023】 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 自ら電話をかけるという大谷の行動もまた、イチローと同じだ。栗山監督が続ける。

「着信を見たら翔平だったから、うわっ、何かアクシデントがあったのかと思ったら、あまりに怖くてすぐに出られなかったんです。だって、僕にとっていい話だったら、翔平は直に連絡しなくてもいいじゃないですか。(通訳の水原)一平を介して『OKです』と伝えれば済む話で、わざわざ僕に電話をかけてくるとしたら、ケガとか事故とか、何かがあったんじゃないかと胸がザワッとしたわけです。そうしたら、最初、違う話をしてきたから、あれっと思っていたら、最後に『あのー』とか言って、『出ます』と......僕は今まで仕事は明日に残してはいけない、決断は今日下すものだと思ってやってきましたが、決まらないこともある、明日へつないでつないで、最後の最後まであきらめないことも大事なんだと思い知らされました」

 大谷翔平という「天邪鬼(あまのじゃく)」(栗山)の取り扱いを熟知しているからこそ、栗山監督は何も言わずに待って、出場する意志があるはずの大谷にすべてを任せた。すると、やはり大谷は来るべきタイミングできちんと出場を知らせてきた。

【大谷翔平と栗山監督の野球観】

 それは、その後も変わることはなかった。

 メジャーリーガーが実戦に出られない2月末からの壮行試合にかけての合流時期も、合流してからの投打の起用法も、決勝戦での登板も、栗山監督はすべてを大谷に任せた。いや、任せたというのは正確ではないかもしれない。何も指示せず、希望も伝えず、任せたとも言わず、大谷がこうしたいと思っていることを大谷に表現させた。それは彼自身、このチームが勝ちきるために何をすべきかをわかっているはずだと、栗山監督が信じていたからだ。

 その信頼感の根底にあるのは、大谷と栗山監督の間でしばしば重なる野球観だ。

 たとえば、村上宗隆のサヨナラ打で逆転勝利を決めた準決勝のメキシコ戦。先頭の大谷がツーベースヒットを打ってベンチの仲間を鼓舞したあの場面、もしツーベースではなくシングルヒットだったらどうだったか。1点ビハインドの9回、追いつかなければ負けてしまう局面で先頭バッターが一塁へ出たら、このチームでは代走に周東佑京がいく。しかし追いついてさらに試合が延長にもつれこむ可能性もあるとなれば、バッターの大谷を下ろすわけにはいかない。ならば──9回、打席に向かう大谷と目が合った。

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る