江川卓がセンバツでまさかの敗退 勝った広島商の達川光男はプロ入り後に知った事実に驚愕した (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

【140イニングぶりの失点】

 一方の江川だが、広島商戦は首をかしげる場面が多かった。初回に2三振を奪ったが、いずれもフルカウントからである。2回は4番から三者連続四球。得意のストレートが浮き、ことごとくボール判定。明らかに調子がおかしい江川は、これまで経験したことのない8四球を記録した。

 その一方で、4回に大会通算55個目の三振を奪い、43年ぶりにセンバツ記録を更新。結局、この試合で11個の三振を奪い、大会通算奪三振記録を60とした。今でもこの記録は破られていない。

 0対0で迎えた5回表、作新が広島商のサウスポー・佃正樹をとらえ1点を先制。スタンドが大いに沸く。だがその裏、広島商にもチャンスが訪れる。一死二塁で、佃がライト前にタイムリーを放ち同点。江川の連続無失点記録は139イニングで止まった。

 5回終了後、広島商の部長・畠山圭司はベンチに響き渡るほどの大きい声で言った。

「江川104球、おまえらの勝ちじゃ」

 それまではベンチの指示どおりに動いているだけで、選手たちは"怪物"江川の前に飲み込まれた感があったが、このひと言で勇気を与えた。

 そして8回裏、試合は大きく動く。先頭の金光が四球で出塁。次打者は三振に倒れたが、一死後、3番・楠原基がわざと空振りし金光がすかさず二盗を決める。楠原は内野安打で出塁。4番は三振に倒れ二死一、二塁となり、ここで江川と亀岡(旧姓・小倉)偉民のバッテリーはひと息つく。この間(ま)を迫田は見逃さなかった。5番打者の3球目にダブルスチールを仕掛けた。

 キャッチャーの亀岡はすかさず三塁に送球するが、ボールは高く逸れてレフトを転々とする間に金光がホームに還り広島商が勝ち越し。

 亀岡はこのシーンを、今でも鮮明に覚えている。

「金光が二盗した時、思いきり投げたらセンターまでボールがいったんです。ちょっと力が入りすぎかなと思っていたら、余計に力が入ってしまって......。これまでサードに暴投したことがなかったから、レフトもカバーしていませんでしたし、思いきり放ったからフェンスまで達しましたね。悠々のホームインでした」

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