江川卓の甲子園デビューは前代未聞の圧巻奪三振ショー「バットに当たっただけで拍手喝采」 (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 初回から5者連続三振。6番・杉坂高には力んで四球を出してしまったが、そこから再び奪三振ショー。4回二死から5番の有田にライトオーバーの三塁打を打たれるまで、11個のアウトをすべて三振でとった。

 ノーヒット・ノーランは果たせなかったが、2対0で勝利。江川は被安打4、奪三振19と圧巻の完封劇で全国デビュー戦を飾った。

【3者三振で締める江川卓の美学】

 試合後、北陽の監督である高橋克はこう語った。

「完敗です。どうしても江川くんの速球に抑えられてしまった。真っすぐを狙わせましたが、スピードが速すぎて、バットに当たらなかった。私の見た限りでは、速球よりカーブのほうがコントロールはいいように思えた。途中から作戦を変え、短打打法に切り替えたがダメだった。敗因は私にあります」

 過去、尾崎行雄や江夏豊の高校時代を知る当時部長だった松岡英孝は、こんなコメントを残している。

「上には上がいるという気持ちですわ。はっきり言って完敗です。三振19個? ウチの野球部史上最多ですね。あんなピッチャーは初めて見ましたわ」

 打線の要である4番の藤田寛は4打数4三振。「あれじゃ、とても打てない」と、うなだれるしかなかった。

 江川の美学は、最終回に3者三振で仕留めること。プロ入りした時によくこの話を出していたが、すでに高校時代から意識していた。

「(9回が)あの試合(北陽戦)で一番できのいいイニングでした」

 試合後、江川はこのコメントのみ笑みを浮かべながら話していたのが印象的だった。

 野球評論家、プロのスカウト、スポーツ記者などは、ふつう欠点を見つければ容赦なく指摘するものだが、江川のすごすぎるピッチングにほとんどの人が手放しで褒めたたえるしかなかった。なかには、最大級の賛辞を贈るスカウトもいた。

「とてつもない大投手。プロとかアマとか別にして、こんな大投手が生まれてきたんだということを野球ファンに見てもらいたいですね。10年にひとりの選手? そんな表現は江川には安っぽすぎる」

 江川はこの試合について、のちにこう振り返った。

「最初の甲子園の第1試合で、優勝候補の北陽と当たりました。その時はすごく調子がよかったので、いいピッチング(19奪三振完封)ができたと思いますね。ただ甲子園になかなか出られなかったので、優勝しようという気は全然なかったですね」

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