斎藤佑樹、ワンバウンド連発のプロ4年目の苦悩「けなされても喜べばよかった」と思う真意 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 ただ、がむしゃらさって何なんだろうなとも思うんです。当時はそういう物言いに反発する気持ちがありました。僕に対してがむしゃらさが足りないと言われているとしたら、それはよくない意味として使われていたんだろうし、それなら斎藤佑樹という選手なんていらないじゃないかと思っていました。

 だから誰かが見ているところで一生懸命やったりするのは嫌いでした。じつは、そもそも誰かが見ているとか見ていないとか、そんなところにこだわっている時点で、まだまだなんですけどね(苦笑)。

 最近になってバーチャル高校野球で高校野球の取材をしていて思うんですけど、一生懸命さとか泥臭さとか、がむしゃらみたいなものって日本人がすごくいいなと感じる部分でもあるんだろうし、それを打ち消してまで涼しい顔でスマートに野球をやるほうがいいとは思いません。そのチーム、その人に合った方法で野球をやればいいんです。その結果、勝つとその野球が正しいと言われてしまいがちですが、僕はそうではないと思っています。

 現役を引退して思ったのは、野球が好きな人って何か意見を持っている、ということでした。自分の言っていることは正しいと信じて何かを言うところにも、スポーツを観る楽しさがあると思います。みんなから注目されてすばらしいとされている選手の改善点を、人とは違う視点で見つけて語るというところも野球ファンの楽しさなのかなって......だからこれだけ野球が人気なんだろうなって思うようになりました。

 褒められるのはうれしいけど、けなされても喜べばよかったんです。好きの反対は、嫌いじゃなくて無関心だってよく言うじゃないですか。嫌われたりけなされたりするというのは、選手にとってはありがたいことだったんです。そもそも、気にしてもらっているということですし、よく見てもらっていなければ文句も言えないし、けなすこともできないわけですから......もちろん今だからこそ、そんなふうに思えるんですけどね(笑)。

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 高校時代から、彼が頼んだわけでもないのに「ハンカチ王子」だの「佑ちゃん」だのと呼ばれて、斎藤は世の中から持ち上げられてきた。彼がしてきたことは涼しい顔でボールを投げて、バッターを打ちとって、勝ってほしいと周りが願うところで勝ってきただけだ。しかし勝てなくなると、今度は彼の涼しい顔に対して「がむしゃらさが足りない」などと言い始める。そんな身勝手な声と、斎藤が結果を欲しがってシンプルなピッチングができなかったこととの間には何かしらの関係があるに違いないと思っていた。しかし斎藤はこの頃、そういう呪縛から少しずつ解き放たれていく。じつは、そのきっかけとなる大事な一日があった。

次回へ続く


斎藤佑樹(さいとう・ゆうき)/1988年6月6日、群馬県生まれ。早稲田実高では3年時に春夏連続して甲子園に出場。夏は決勝で駒大苫小牧との延長15回引き分け再試合の末に優勝。「ハンカチ王子」として一世を風靡する。高校卒業後は早稲田大に進学し、通算31勝をマーク。10年ドラフト1位で日本ハムに入団。1年目から6勝をマークし、2年目には開幕投手を任される。その後はたび重なるケガに悩まされ本来の投球ができず、21年に現役引退を発表。現在は「株式会社 斎藤佑樹」の代表取締役社長として野球の未来づくりを中心に精力的に活動している

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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