阪神・村上頌樹を変えた巨人・岡本和真から奪った三振 クビ覚悟で挑んだプロ3年目に何が起きていたのか (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

── 自主トレ段階から、ストレートの変化を感じたのですか。

村上 まだ全力で投げていないのに、これかなという感覚が徐々に増えていきました。キャンプ、オープン戦でさらにその回数が増え、いい感じのままシーズンに入っていけました。

【自信をつかんだ岡本和真との対戦】

 オープン戦3試合(8イニング)を無失点で終え、初の一軍開幕。開幕2戦目の中日戦(京セラ)でシーズン初登板(1回無失点)を果たし、2度目の登板は2021年8月28日以来となる先発での巨人戦(東京ドーム)。ここで村上は7回まで巨人打線にひとりもランナーを許さない完璧な投球を披露。完全試合継続中の8回に交代となったが、この試合で村上がもっとも印象に残る場面として挙げたのが、高校の先輩でもある岡本和真との対戦だった。

── 初回三者凡退のあとの2回、先頭で打席に立った岡本選手の第1打席。カウント2--2から、捕手の坂本誠志郎選手の要求はアウトローのストレート。その勝負球が真ん中高めにいきますが、岡本選手はフルスイングで空振りしての三振でした。

村上 自分のイメージでは「高めに強い球を」と思って、誠志郎さんの構えたところよりちょっと高めを狙って投げて、そこで空振りがとれた。コースは少し甘かったですが、自分としてはほぼイメージどおりの1球でした。

── 高めのストレートで空振りをとれたことが大きかった?

村上 そうですね。変化球ではなく、取り組んできた真っすぐで三振がとれた。岡本さんから空振り三振を奪えたことで、「今年は一軍でやれるんじゃないか」という自信につながりました。

── あの回は、岡本選手のあと、中田翔選手をセカンドゴロ、坂本勇人選手は真っすぐで空振り三振に打ちとりました。

村上 あのイニングはほんとによかったことを覚えています。そのなかでも岡本さんはイニングの先頭打者でしたし、もし出塁を許していたらどうなっていたかわかりません。結果的に三振をとれたことで、リズムよく抑えられたのもあったと思います。

── もし岡本選手に打たれていたら、あの試合も、この1年もどうなっていたかわからなかったと?

村上 ベストボールではなかったですけど、1年を戦う自信がついた。それくらい大きな1球でしたね。

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村上頌樹(むらかみ・しょうき)/1998年6月25日、兵庫県生まれ。小学1年生で野球を始め、中学時代は硬式のクラブチーム「アイランドホークス」に所属。智辯学園高に進学し、1年夏からベンチ入り。1年夏、3年春夏と甲子園出場を果たし、3年春のセンバツでは全5試合をひとりで投げ抜き優勝。高校卒業後は東洋大に進み、1年春からリーグ戦に登板し、3年春は6勝無敗、防御率0.77の成績を残し優勝に貢献した。20年のドラフトで阪神から5位指名を受け入団。プロ3年目の23年、10勝6敗、防御率1.75の好成績を挙げ、18年ぶりのリーグ制覇、38年ぶりの日本一に貢献。新人王とMVPをダブルで受賞した

プロフィール

  • 谷上史朗

    谷上史朗 (たにがみ・しろう)

    1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『一徹 智辯和歌山 高嶋仁甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。

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