侍ジャパンはなぜこれ以上ないエンディングで世界一を果たせたのか 栗山英樹「野球の神様がシナリオを書き始めた」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 編集協力●市川光治(光スタジオ)

 決勝の最終回、僕は牧原(大成)を守らせてやりたかったんです。(ケガで辞退した)鈴木誠也の代わりに途中からチームに加わって、牧原は苦しかったと思います。こっちもなかなか試合に出す機会がなくて、でもベンチでは一生懸命、いろんなことをやってくれていました。試合には出ていなくても、あらゆることに対して全力で尽くして、勝つために努力してくれている牧原の姿を僕はずっと見ていました。

 準決勝でバントの準備をさせた時、覚悟させておいて、でも使わなかった。源ちゃんがケガしたときも牧原は「ショートはしばらくやってないから不安です」と言っていたのに、試合前に率先してショートでノックを受けて、スタンバイしてくれた。

 バントにしてもショートにしても牧原の練習ぶりは、いけと言われれば僕はいつでもいきます、僕はやりますというふうに僕の目には映っていました。そんな牧原のよさを引き出して、光り輝かせる場所をアメリカでつくってやれていないという申し訳なさが込み上げてきて、絶対に情にだけは引っ張られてたまるかと思っていたのに、最後の最後、情に流されてしまいました。

 もちろん、守備固めとしてのセンター牧原が最善手じゃなかった、という意味ではありません。問題は(ラーズ・)ヌートバーでした。牧原をセンターへ入れるということは、このチームでヌートバーが一度も守ったことがなかったレフトへ持っていくことになります。

 だからマサ(清水雅治コーチ)には2度、確認してもらいました。2度目は「マサ、もう一回、聞いてくれ」とまで念押しして......ヌートバーがレフトを受け入れてくれたら、センターに牧原が入ることはみんなにもわかります。

 実際、そうしてあげてほしいという空気も感じていました。それでもWBCで初めてレフトを守るヌートバーというリスクも含めて、プラスマイナスをいろいろ考えました。ただ、心のどこかに牧原への感謝と、最後のシーンで守らせたいという思いがあったことはたしかです。それが僕の監督として一番ダメなところかもしれないし、弱いところかもしれない。そんなふうに思っています。

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