WBC準決勝の舞台裏を城石憲之が振り返る「ロマンが結果につながる」栗山采配のすごさ (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 編集協力●市川光治(光スタジオ)

 すぐにマッキーのところへ行って「ムネで行くから」と伝えたら、「そうそう、城石さん、そのほうがいいですよ」って......本当は、何としても(バントを)決めてやるという気持ちになってほしいところですが、そりゃ、酷な話です。

 その前にあの源ちゃん(源田壮亮)が一発で(バントを)決められなくて、ガチガチになりながら3球目でやっと決めた姿も見ていたはずですから、あんな場面で「僕がバントしてきます」なんて喜んで出て行く選手がいたとしたら、そのほうが信用できない(笑)。

 (吉田)正尚のカウントがスリーボールになったところで、監督が「ムネのところへ行って、おまえに任せたって伝えてきて」と言うんです。えっ、オレが? ムネに? ここで行くの? と思いました。

【栗山監督は子どもみたいな顔をしていた】

 バッターって、コーチがネクスト(バッターズサークル)に来ると「何だろう」って思うんですよ。ムネが絶好調なら背中をちょっと押すくらいの感じでいいんですが、調子がよくなかったので、僕が行ったら絶対に構えちゃうと思いました。だって、代打を送るわけじゃないんだから、そのまま気持ちよく送り出せばいいじゃないですか。

 そもそも僕はムネがまさかネクストで「バントなのか、代打を出されるのか」なんて気持ちになっているとは思ってもいませんでしたからね。でも監督は、ムネが不安を抱えていると思っていて、だからその不安を僕にかき消してもらおうと伝言を託したんです。そういう観察力とか、僕を行かせるかどうかの判断力とか、僕を送り出すタイミングとか、すべてが絶妙だったと思います。僕だったらあの時のムネに声をかけようとは思いませんからね。

 だからこそ、限られた時間のなかでどうやってムネにアプローチしようか、僕なりに考えました。僕が行くことによってマイナスになるようなことだけはしちゃいけないと、それだけを肝に銘じながら位置取りを考えて、ネクストのできるだけ近くで構えて正尚がフォアボールになった瞬間、スッとムネに近づきました。

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