2023年野球界10大ニュース WBC制覇、大谷翔平のMVP、阪神のアレ、オリックス3連覇... (5ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki

夏の甲子園107年ぶりの優勝を果たした慶應義塾ナイン photo by Ohtomo Yoshiyuki夏の甲子園107年ぶりの優勝を果たした慶應義塾ナイン photo by Ohtomo Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る

【慶應義塾高が夏の甲子園107年ぶり制覇】

 夏の甲子園初優勝が1916年の第2回大会。高校野球界きっての伝統校の慶應義塾が、第105回大会で107年ぶりに頂点に立った。

 仙台育英との決勝戦で初回先頭打者ホームランを放つなど打率4割9分。リードオフマンとして打線を牽引し、日焼け必至の真夏にも関わらず色白だった丸田湊斗は「美白王子」としても話題となった。プロ野球歴代5位の525ホームランを記録した清原和博(西武、巨人、オリックス)の次男の勝児は、代打の切り札のような役割を果たすなど、チームにはキャラクターが引き立つメンバーが揃っていた。

 慶應義塾はこの夏、選手たちの長髪をはじめとする"個性"が注目されていたが、それは今に始まったことではない。選手たちが髪を伸ばすのは「野球は格好でするものではない」と戦後間もない時期から続いており、今も「スポーツマンらしい頭髪であれば制限はない」とされている。

「エンジョイ・ベースボール」も、世間の関心を集めた。森林貴彦監督が掲げるこのモットーには、「楽しむためには、しっかり練習をして技術を養い、高いレベルの野球をしなくてはいけない」という真意がある。

 普段の練習から選手たちが自発的に一つひとつのプレーと向き合う。固定観念にとらわれず「状況に応じてはスクイズを警戒しなくていい」といった具合で、精力的に監督に提案する選手主導の野球を進めている。3回戦の広陵戦、1点リードの7回、一死二、三塁の場面で「同点OK」と中間守備をとり、ショートゴロを三塁へ送球してアウトにした場面など、大会では随所に好判断が目立った。

 今年の夏の甲子園は、まさしく慶應義塾が長年培ってきた野球の結実を意味していた。半ば「変わり者」のように見られてきたチームは、日本一になることで自分たちの身上を世間に認知させることができたのである。高校野球新時代の幕開け──そのきっかけを生んだのは紛れもなく慶應義塾だった。

後編につづく>>

プロフィール

  • 田口元義

    田口元義 (たぐち・げんき)

    1977年、福島県出身。元高校球児(3年間補欠)。雑誌編集者を経て、2003年からフリーライターとして活動する。雑誌やウェブサイトを中心に寄稿。著書に「負けてみろ。 聖光学院と斎藤智也の高校野球」(秀和システム刊)がある。

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る