山田久志が若手の松永浩美に「お前、勘違いしてないか?」 その後の野球人生を変えた言葉の真意とは? (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

 昔は、同じチームでも投手と野手が交流する機会はほとんどありませんでしたが、そこからは山田さんに話を聞きにいくことも増えました。例えば、「ランナーがスコアリングポジションにいる時、どんな球から投げますか?」など、ピッチャー心理に関する質問をすると、山田さんが「こういう球から絶対に入らなきゃいけない。オレだったらこういう球から投げる」といった話をしてくれました。

 打者として同じようなシチュエーションになった時、それがほぼ当たっていたんです。山田さんとの会話で勉強になったことは本当にたくさんあって、そのひとつひとつがプロ野球選手としてのレベルを高めるきっかけになりました。

――松永さんがベテランになってからも、山田さんからの教えは生かされた?

松永 若いピッチャーが不安そうに投げていたら、パッとマウンドに行って「俺のところに打たせろ。ゲッツーとってやるから」と声をかけたり、野手も含めて若手に対しては不安を払拭するための言葉を意識していました。

【引退登板の試合が、阪急の最後の試合に】

――山田さんの現役最後の試合(1988年10月23日、西宮球場でのロッテ戦)でも、松永さんはサードを守っていましたね。

松永 内野陣でボール回しをしたあと、いつもはブーマー(・ウェルズ)などファーストの選手からピッチャーの山田さんにボールを渡していたのですが、この現役最後の試合では私から渡したんです。その際に、「今日は勝負関係なく、このマウンドをゆっくり楽しんでください」と伝えました。

――山田さんは何か言っていましたか?

松永 「マツ、ありがとう」とニコッと笑ったんですよ。あの時の山田さんとの会話、表情は今でも忘れられません。

――山田さんの現役最後の登板は、奇しくも阪急としての最終戦でもありました(同年10月19日に、現オリックスのオリエント・リースが阪急を買収)。

松永 そうなんですよね。ご自身の引退はもちろん、阪急の身売りの件も重なって......。なので、試合開始のタイミングで私がかけた言葉なんて、覚えていないと思いますよ。その後にお会いした時も、「マツ、最後に言葉をかけてくれたよな」なんて会話は一切したことがありませんから(笑)。

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