山田久志が若手の松永浩美に「お前、勘違いしてないか?」 その後の野球人生を変えた言葉の真意とは? (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

――大エースである山田さんだけに、その違いを見抜くのは難しかったんじゃないですか?

松永 最初は迷うこともあったのですが、山田さんのマウンド上でのしぐさを観察しているうちに、なんとなくわかるようになってきたんです。本当に苦しくてフォアボールを出しているのか、気持ちに余裕があって戦術的にわざと出しているのか。その違いが徐々に理解できるようになって。なので、マウンドに行ってピッチャーに声をかけに行くタイミングは、山田さんに教わったと言ってもいいですね。

【エラーが続く松永に「お前、勘違いしてないか?】

――山田さんが試合中に教えてくれたことは、他にもありますか?

松永 私が22歳ぐらいで試合に出始めた頃だったんですが、山田さんが投げる試合で緊張してしまい、よくエラーをしていたんです。そんな時に「お前、勘違いしてないか? 俺が投げる時にはエラーをしてはいけないって思ってないか?」と言われたことがあったんです。

 それで私が「当然じゃないですか。山田さんはエースですし、山田さんが投げる時は絶対に勝たなきゃいけません」と返したら、「マツ、プロに入って何年目だ?」と。「お前のミスぐらい、俺はいくらでもカバーできる。ミスは計算に入れているから、俺が投げている時のエラーは気にしなくていい」と言ってくれて。父親が自分の子供を見守っている感じというか......。

 おそらく半分は本当で、半分は違ったんじゃないかと。単純に、私の気持ちを楽にさせてあげようという狙いもあったんじゃないかと思います。ただ、「マツが成長して、マツよりも若いピッチャーが投げている時のエラーは、若いピッチャーにはこたえるよ」とも言われました。それから、エースよりも、若いピッチャーが投げている時のほうが守っていて緊張するようになりましたよ。

――山田さんが投げる時の試合では、楽に守備ができるようになりましたか?

松永 ものすごく楽になりました。「エースが投げるからミスしちゃいけない。勝たなきゃいけない」という力みがスッとなくなりましたから。山田さんと意思が通じる感覚もあって、すごく成長できた実感がありました。私は内野にコンバートされたばかりで、内野の守備にそれほど自信がない時でしたし、山田さんのひと言でかなり変われたと思います。

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