「大谷翔平的発想」をメジャースカウトが推奨 日本人に注目する理由と優先すべきこととは? (3ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi

 それがある選手のメジャー入りで、アジア選手の評価がグッと高まったというのだ。

「きっかけはメッツに入団した千賀滉大です。育成から台頭した選手がメジャーで活躍する。それはドミニカやベネズエラなど、中南米依存が強かったメジャーのスカウト部門に大きなインパクトを与えました」

 そして、メジャー挑戦を明言している山本由伸や今永昇太らの行き先と、今後の活躍によってスカウティングにも影響が出ると、スカウトC氏は言う。

「ともに好投手ではありますが、日本でも小柄な部類に入る投手たちです。そんな彼らがメジャーに入って、期待どおりの結果を残したら、今まで以上に日本のマーケットに注目するでしょう」

 日本人選手に注目する具体的な理由はこうだ。

「フィジカルだけなら、ドミニカやベネズエラなどの選手にかなわないかもしれない。しかし、彼らは制球力や守備の基本動作など、すべて1から教え込まなければいけない。それにどれだけの時間と労力がかかるか。その点、日本の選手は少年野球や高校野球で基本的な技術を身につけ、プロで磨かれていく。つまり、同じ新人でもスタート地点がまるで違う。日本選手のレベルが相対的に高いのは、そうした基本ができているから。それをメジャーのスカウト部門の要職者たちが、ようやく気づき始めたというわけです」

 今後はよりいっそう、メジャーから誘われる選手が多くなる気配がある。

 その一方で、前出のスカウトA氏はこう警鐘を鳴らす。

「NPBの最高年俸はいくらですか? 6億円くらい? メジャーに行けば、1年目からその数倍以上の金額が手に入る。でも、最初から大金を手にすることには賛成できません。最初は少額でも環境や出場機会が多いといったチーム状況など、金銭以外の要素を大事に考え、まずはプレーで成功することを優先して考えるべきです。お金は成功すればあとからついてきます」

 それをA氏は「大谷的発想」と表現した。

「野手なら、かつてカージナルスなどでプレーした田口壮さんも好例ですね。お金よりも環境や出場機会を優先したからこそ、長くプレーできた」

 いずれにしても、メジャースカウトにとってのアジア市場は、以前にも増して注目されていることだけは間違いないようだ。

プロフィール

  • 木村公一

    木村公一 (きむらこういち)

    獨協大学卒業後、フリーのスポーツライターに。以後、新聞、雑誌に野球企画を中心に寄稿する一方、漫画原作などもてがける。韓国、台湾などのプロ野球もフォローし、WBCなどの国際大会ではスポーツ専門チャンネルでコメンテーターも務める。

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