清田育宏が批判覚悟で挑んだ1年間のBCリーグ生活 正真正銘の引退試合で若手選手に伝えたかったこと (4ページ目)

  • 岩国誠●文 text by Iwakuni Makoto

 太鼓を交えて独特のリズム。ロッテファンにとっては懐かしい響きだ。その声援と太鼓の振動を背に受けながら、9回表二死ランナーなしで、清田は現役最後の打席に向かった。

「(9月に)引退試合をしていただいた時は、まだ先があることはわかっていたので、あまり実感がなかったのですが、この時は『最後の打席か......』って思いながら、こみ上げるものがありました」

 空を見上げ、気持ちを整理してピッチャーに向かう。最後の相手となったのは、元広島の山口翔。150キロを超えるストレートが持ち味で、地元・熊本からNPB復帰を目指す24歳の本格派右腕だ。

「全部真っすぐで勝負してくれました。そのなかで、空振りとファウル打っちゃってね......」

 全球150キロ超えのストレートが、ストライクゾーンギリギリに投げ込まれる。フルカウントまで持ち込み、勝負の6球目、山口が決めにきたストレートはインハイに抜けてフォアボール。清田は白い歯を見せながら一塁へと歩いた。

「三振だけはしないようにと、ずっと考えていました。試合後に(山口が)『すみません』って言ってきてくれたけど、気にしていないですし、僕らしいなって思いました。あのフォアボールはすごく価値のあるものだと、僕は思っています」

 この段階で5点差をつけられていた。敗色濃厚のなかでの現役最終打席で、清田はチームの勝利を目指して、次の打者へつなぐことを選んだ。「最後まであきらめるな」と、若い選手たちへのメッセージとも思える打席だった。

 試合は1対6で敗れ、BC武蔵の日本一はお預けとなった。観客へのあいさつを終えたところで、スタンドから自然とコールが起きた。

「よくやった! よくやった! キーヨータ!」

 こみ上げるものを抑えられなくなったのか、清田は天を仰ぎ、手で口を覆った。

「ああ、これで終わりなんだ」

 その瞬間、頬を伝うものがあった。

「批判的な意見もあるなかで、1年間、本当に大きい声で応援してくれるファンの方々の存在はありがたかった。今日も最後は(対戦相手の)サラマンダーズのファンの方が『本当にお疲れさま!』って言ってくれて......。本当にやってよかったなって、あらためて思いました」

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