トミー・ジョン手術3回の館山昌平が1億円プレーヤーを10年間経験してわかったお金よりも大事なこと (2ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

── 10回も体にメスを入れた館山さんはどんな気持ちで手術を受けていたのですか。

館山 ある意味、自分の限界を超えた時に故障してしまう。だから、うれしいという気持ちもあるんです。もちろん、手術をしないといけない状況になったことは悔しい。リハビリの期間は、まわりの人に迷惑をかけてしまう。悔しいんだけど、『ここまでやれたか! 自分のベストが出せた!』とも思う。

【プロ野球で育てられた男の使命】

── 館山さんはリハビリの日々を乗り越えて、2015年7月、1019日ぶりに一軍で勝利を挙げます。11試合に登板し、6勝3敗、防御率2.89。14年ぶりのリーグ優勝に貢献し、日本シリーズで初登板を果たしました。シーズン後にはカムバック賞を受賞しています。

館山 僕も若い頃は自分の力以上のものを出したいと思っていましたけど、やっぱりうまくいかなかった。求められるものだけを出そうと思えば、緊張することはありません。僕の場合、野球がものすごくうまいわけじゃなかった。だけど、自分ができることだけやっておけば、まわりが勝手に評価してくれる。

 大事なのは、どんな準備ができたのかということ。先発投手なら、その1週間にやったことの答えがマウンドで出る。過去の自分の答え合わせができるんです。勝負どころで熱くならずに、自分の力を出せるかどうかで結果が変わってきます。

── 館山さんは現役引退後、独立リーグの福島レッドホープスの投手コーチに就任。そこではどんな指導をしましたか。

館山 若い選手たちには、「記憶と記録を間違えないように」と言いました。自分がどんな準備をしたのか、それをきちんと書き留めておいて、あとで振り返れるようにと。小さなことでもいいから書いておけば、自分を助けてくれるかもしれない。10回のうち1本ホームランを打たれて、残りを全部抑えたとします。記憶には1本のホームランが強く残るけど、9回は抑えたという事実がある。記憶に支配されてはいけないので。

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