1試合700杯も!? 神宮球場・人気「ビールの売り子」の販売術「お客さんとアイコンタクト」「常連さんの前は20分おき」 (4ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi
  • 立松尚積●撮影 photo by Tatematsu Naozumi/神谷年寿●動画 movie by Kamiya Toshihisa

【樽交換時が束の間の休憩】

 午後6時のプレーボールに合わせて、観客席が急に埋まり始める。

 試合開始の前後は"駆け付け1杯"を頼む人が多く、最も売れる時間帯だ。わずか10分ほどで樽を空にしてビール基地に戻ってくる売り子もいるほど。試合の中盤以降は売り上げが鈍くなるので、序盤が書き入れ時と言っていい。

 試合中は点が入ったタイミングが売れやすい。この日は2回にヤクルトの村上宗隆選手のソロホームランでヤクルトが先制し、その後も得点を重ねた。神宮球場のスタンドに傘の花が咲くたびにファンは祝杯をあげていた。

この日は総勢160人の売り子がビールやソフトドリンクなどを販売この日は総勢160人の売り子がビールやソフトドリンクなどを販売この記事に関連する写真を見る スタジアムの熱気と蒸し暑さで観客がビールを欲するのも当然だが、喉が渇くのは売り子も同じ。ビールの樽が空になるたびに、売り子は基地に戻り補充するが、そのタイミングで売り子も水分を補給していた。

 試合も終盤に差し掛かると、ビールの売り上げが鈍ってくる。それに合わせて、売り子の人数も減ってくる。

 試合終了までシフトに入れるかどうかは、これまでの実績で決められており、希望すれば最後まで残れるというわけではない。なんともシビアな世界なのだ。

 終盤にビールを購入するのは、一見よりも常連の観客が多いという。何人もの常連を抱える売り子が最後まで残るのは当然の販売戦略だと言えるだろう。終盤の追い込みが、その日の売り上げを大きく左右する。いよいよラストスパートだ。

 試合は、ヤクルトの快勝ムードが一転して、9回にDeNAの猛攻に遭い最後までもつれた。3時間を超える熱戦となったが、辛くも2点差でヤクルトが逃げきった。

 さてさて、話を聞いた3人の売り上げはいかに......。

「174杯。試合開始前後でなんとなくその日の杯数が分かるのですが、その時にあまり売れなかったんです。それを挽回できてよかった」(ちひろさん)

「目標には届かず150杯ぐらい。満席だったのでもうちょっと売れたかなと思うのですが......。でも最後、試合が長引いてそこで売れたので、ちょっとよかったです」(ももかさん)

「181杯。ちょっと届かず。惜しかった。目標にはいかなかったんですけど、頑張って売れたのでよかったです」(はるかさん)

試合終了後に売り上げを精算する売り子たち試合終了後に売り上げを精算する売り子たちこの記事に関連する写真を見る それぞれ目標には届かなかったが、悪条件のなか健闘したと言えるのではないだろうか。

「お腹ぺこぺこです。昨日はカップ麺に締めでご飯を入れて食べました。今日は何を食べるか、決めていないですけど、いっぱい食べます。お肉が食べたい!」とはるかさん。

 翌日にも試合があり、英気を養うのも仕事のうち? 心地よい疲労感とともに彼女たちは家路につくのであった。


前編<神宮球場「ビールの売り子」に密着取材 重要なのはコミュニケーション能力、シフトに入るための「レギュラー争い」も?>を読む

プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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