篠塚和典の芸術的なインコース打ちは、「別格の速球」を投げた江川卓との対決で生まれた (2ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo
  • photo by Sankei Visual

【江川との対決で受けた恩恵】

――そこで打ってしまう篠塚さんもすごいですね。ちなみに江川さんは、「プロ時代を含めても、高校時代が一番球が速かった」と言われていますが、それに関してはいかがですか?

篠塚 「高校2年生の時が一番速かった」と言っていましたね。確かに、法政大時代のピッチングをたまにテレビで見ることがありましたが、高校時代のほうが体の強さを感じました。それと、あれだけ速いボールを投げるピッチャーなので、「プロに行くのであれば、(肩を大事にするため)あまり投げない方がいいんじゃないかな」とも思っていましたね。

――篠塚さんは銚子商2年時に夏の甲子園(1974年)で優勝するなど、多くのピッチャーと対戦されていますが、その中でも江川さんは別格だった?

篠塚 別格ですよ。江川さんの球を初めて見た時に、「この速い球をうまく打つにはどうすればいいのかな」と考えました。言い方を変えれば、江川さんが「真っ直ぐの速さを感じないタイミングの取り方」を勉強させてくれたんです。それを体で覚えて以来、どんなに「球が速い」と言われるピッチャーとの対戦でも、まったく速さは感じませんでした。

――プロに入ってからも、真っ直ぐの速さは江川さんが基準だった?

篠塚 そうです。「そのピッチャーの一番速い球を打てるようにする」というのがひとつの目標だったのですが、江川さんの真っ直ぐを基準にしていたことで、苦労することはなかったです。インサイドの真っ直ぐをいかに打つか、がバッティングでは重要ですが、私の場合はそのボールが好きでしたから。

――確かに、篠塚さんはインサイドの真っ直ぐに強いイメージがあります。一般的には差し込まれることもあって、苦手とする選手も多いコースですよね。

篠塚 長いバットを持っているわけですから、普通は体の近くに速い球を投げられるのは一番嫌ですよね。ただ、インサイドが苦にならなければ、体から少し遠いところは当てやすくなりますし、ピッチャーは投げるところがなくなっていく。なので、インサイドに強くなるのは打率を上げるために大切な考え方なんです。江川さんとの対決は、そういう恩恵を与えてくれました。

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