巨人・秋広優人の覚醒に広岡達朗は疑心暗鬼「これほど劇的に変わった選手を見たことがない」 (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin
  • photo by Sankei Visual

 古くは、王貞治には荒川博、大杉勝男には飯島滋弥、衣笠祥雄には関根潤三、掛布雅之には山内一弘、秋山幸二には長池徳士、村上宗隆には宮本慎也と、名伯楽がつきっきりで教えて大打者へと成長させた。

 近年、選手の大型化が目立ち、ダルビッシュ有、大谷翔平、藤浪晋太郎、山下舜平大、佐々木朗希など、190センチ以上の選手は珍しくない。ただ、大成しているのはほとんどが投手であり(大谷は二刀流で活躍)、野手で目立った活躍をした選手というのは、一昨年にパ・リーグ本塁打王に輝いた杉本裕太郎(オリックス/190センチ)など数えるほどしかいないのが現状だ。

 2メートルという規格外の体格で実績を残した前例がないせいか、ドラフトで巨人以外の球団は指名を見送ったとも言われている。"素材型"として巨人に下位指名(5巡目)され、そこから着実に進歩を遂げているが、ここからが本当の勝負になる。それは指導者にも言えることである。

「ファンが夢を持って話すのはいいが、現場は選手の適性をきちんと見極めて指導しなくてはならない。かつてヤクルト、西武で監督をしていた時に、ヘッドコーチに森祇晶がいた。森は"鬼軍曹"のごとく選手を締めつけた。だから、ある日『人間は長所と欠点を持って生まれてきてるんだ。おまえは欠点ばり言ってるから不愉快になる。長所を伸ばせば、欠点が消えるということを知らんのか!』と言ったんだ。これは日本人の指導者に共通すること。どうしても、コーチというのは型にはめたがる傾向がある。そりゃ、自分が持っている型にはめれば指導はラクになる。だが、選手は十人十色。体格や性格が違えば、教え方もそれぞれ変わってくる。

 秋広にしても、前例がないからわからないではなく、勉強すればいいだけのこと。他競技からでも、筋肉や関節の動作の研究をしたり、メジャーには2メートル級の野手がいくらでもいる。やるべきことはたくさんあるはずだ。いい素材を獲って、練習と指導で能力を開花させるのがプロのコーチである。いずれにしても秋広には、打率やホームランといった数字は気にせず、試合に常時出場しながら体力をつけ、シーズンのリズムを体で覚えろと言いたい」

 百戦錬磨の広岡が困惑するほど、秋広は驚異的な進化の過程にいる。そんな秋広に、広岡は期待を込めてエールを送る。

「正しいと思ったことを最後までやれ!」

プロフィール

  • 松永多佳倫

    松永多佳倫 (まつなが・たかりん)

    1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。

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