新井貴浩監督はいかにしてカープを再建したのか 采配から読み解く「新井イズム」の正体 (2ページ目)

  • 前原淳●文 text by Maehara Jun
  • photo by Sankei Visual

 また、これまで役割が定まらなかったニック・ターリー島内颯太郎という左右の速球派が、矢崎につなぐセットアッパーに固定された。ともに制球面や精神面を指摘されることがあったが、今季はそういった言葉は聞かれない。

「ゾーンの中で勝負したらいいから。それで打たれたとしても、次の打者に向かっていく姿を見せてほしい」

 実際に打たれたとしても、次の登板は同じような状況で登板機会がめぐってきた。「やることが明確になった」と島内が言えば、ターリーも「僅差や同点の場面で使ってもらうことで責任感は増す」と語る。言葉だけでなく、起用法によって得た信頼感がふたりの殻を破らせた。

 そこに復調した栗林が加わり、大道温貴や中崎翔太らも奮闘する。リーグトップの20回の逆転勝利は、厚みが増したブルペンの存在が大きい。

【適材適所の選手起用】

 投手陣を整備した抜群のコミュニケーション力は、野手の起用にも発揮される。数字ではなく、内容で判断した。昨季までなら降格候補になるような成績の選手が決勝弾や決勝打でチームを勝利に導いたのは、1試合や2試合ではない。

 スタメンも、相手との対戦データだけを重視するのではなく、自軍のデータを優先して起用することもある。右投手には左打者、左投手には右打者という起用ではなく、左でも左、右でも右を起用することが好結果につながっている。

 チームを"家族"と表現して、昨年秋のキャンプから選手の特徴や性格を見てきた新井監督だからこそできる起用法であり、結果として奏功しているのだろう。

 選手の力を最大限生かす柔軟な起用だけでなく、タクトを振るう采配に選手が呼応している。

 勝負どころだと判断すれば、試合中盤であっても代打策に出て攻撃的な姿勢を示す。攻撃的な選手起用で、ベンチ入りした野手を使いきった試合もあった。

 試合序盤から犠打、セーフティースクイズは大きく減ったが、その代わりに盗塁やヒットエンドランが増えた。背景には、選手に責任を負わせたくないという新井監督の方針がある。仮に失敗したとしても、責任を負うのはサインを出したベンチ。だから、選手は思いきってプレーできる。

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