ヤクルト奥川恭伸は「この1年間はつらいことばかりでした」 戸田球場に生きる悲哀と苦悩、そして希望 (5ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Sankei Visual

 サブグラウンドや陸上競技場では、小野寺力二軍投手コーチが選手と対話しながらキャッチボールをする姿をよく見かける。ある日のこと、ファームで調整していた高梨裕稔が小野寺コーチと育成の沼田翔平のキャッチボールを眺めていた。

 後日、高梨にその日のことを聞くと「僕も沼田と同じように下半身の使い方に課題があって、あらためてそのことに気づける時間になりました」と教えてくれた。

「沼田が投げるのを見て、鏡を見ているわけじゃないですけど、『自分もこうやって投げているのか』と。自分の気づきにもなることがあるので、戸田ではほかのピッチャーの練習をよく見るようにしています」

 この光景は偶然ではなく、小野寺コーチが「ああなっているんだよ」と、高梨に見るように勧めたのだという。

「一軍は試合が続くので、なかなかあのような時間をつくるのは難しいですからね。二軍は初心に返ってじゃないですが、バランスよく投げることや、課題があったらそれを解消するようにしてあげたいと思ってやっています」(小野寺コーチ)

【ベテラン川端慎吾の思い】

 プロ18年目となる川端慎吾は、若手時代、リハビリ時代、ベテラン時代と、今日までいろいろな経験を戸田で重ねてきた。

「若い時はただがむしゃらに数と量をこなすことを目標に、とにかく練習するんだという気持ちでやっていました。(椎間板ヘルニアの)リハビリで戸田にいた時は、本当に苦しかったですね。治ってほしいのにまったく治ってくれないというなかで、下を向いてはいけない、とにかく前を向いてやっていたことを覚えています。今は歳もとってきているので、量よりも質を重視して、ちょっとずつでもいいからしっかりやろうと思っていました」

 今シーズンは二軍キャンプスタート。そのまま戸田で春季教育リーグに出場し、若い選手と同じ練習メニューをこなし、雨が降りしきるなかでの試合では三塁で先発出場。ダイビングキャッチでピンチを救う場面もあった。

「今年の戸田で一番思っていたことは、去年の悔しさを忘れずにやっていこうということですね。去年は結果が出ずに悔しい思いをしたので、なんとかもう一回やってやろうと。12月からずっと練習してきて、ファームでも多く打席に立たせてもらうなど、しっかり準備してきたなかで一軍に上がることができました」

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