江藤慎一に弟のようにかわいがられた江夏豊 逮捕後も「おい、やんちゃくれ来いと言ってくれた。実質、兄貴やったかな」 (3ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by 産経新聞社

 江夏は、メジャーへの夢が成就せず帰国してから、江藤の主催する日本野球専門学校を訪ねて講演を行なっている。

アメリカから帰国した江夏(右)を出迎える江藤(左)アメリカから帰国した江夏(右)を出迎える江藤(左)この記事に関連する写真を見る「そこにおる人が全部とは言うんじゃないですけど、結構、優秀な有望な人でも、人との接し方ができなくて問題を起こしたり、暴力を振るったり、そういう人ってたくさんいる。好きな野球ができなくなった。それは、もう僕も何人か見てきているし。僕自身が、中学の時、暴力問題でクビになって陸上部に入って砲丸投げをしとったんやからね。そういう子らへの機会を提供するのは大事ですよ」

 江夏は1993年に覚せい剤所持の容疑で逮捕され、2年4か月の実刑判決を受けていた。

「よい野球人でも、やっぱり江夏という人間を温かく包んでくれる方というのはそうはいない。それは、いろんな感情が湧いて近づき難いというふうになれば、合わない部分も当然人間だからあると思うんです。でも、江藤さんは、初めから弟に接するような、おい、やんちゃくれ来いと言ってくれた。僕の人生にとって実際の兄貴は2人いたんだけど、そういう接し方が、できなかった。僕の環境は、3人兄弟で男ばっかり。長男は、14歳上で、親父はいなかったから、もう親父代わりで。真ん中の兄貴は、養子に出されたから。あまり子どもの時に遊んだり、一緒にご飯を食べたという思い出がないんです。だから江藤さんが実質、兄貴やったかな」

 全盛期のONを押さえての2年連続の首位打者、水原茂監督との確執によっての任意引退、副業の会社の倒産と借金、セ・パ両リーグにまたがる首位打者、再びのトレード、兼任監督、4度目の放出、少年野球、野球学校......、これらの半生を踏まえて江藤さんはどんな存在でしたか、と訊くと、孤高の左腕は、「こよなく野球を愛した誇るべき先輩やね」と言った。

(おわり)

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『江藤慎一とその時代 早すぎたスラッガー』
木村元彦著 2023年3月22日(水)発売 1760円 ぴあ

プロフィール

  • 木村元彦

    木村元彦 (きむら・ゆきひこ)

    ジャーナリスト。ノンフィクションライター。愛知県出身。アジア、東欧などの民族問題を中心に取材・執筆活動を展開。『オシムの言葉』(集英社)は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞し、40万部のベストセラーになった。ほかに『争うは本意ならねど』(集英社)、『徳は孤ならず』(小学館)など著書多数。ランコ・ポポヴィッチの半生を描いた『コソボ 苦闘する親米国家』(集英社インターナショナル)が2023年1月26日に刊行された。

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