「ハンカチ王子を卒業しろ」 恩師からの檄に斎藤佑樹はプロに向けて150キロを目標に掲げた (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 その反面、2年の秋から3年の春にかけてはベンチプレスばっかりをしていました。本来、やるべきことと真逆のことばかりをしていたんです。もちろんベンチプレスをしてもいいんですが、同時にどこを柔らかくしておくべきなのか......当時はそういう知識はちょっと勉強したくらいではなかなか得られませんでしたし、身体のことをもっと理解した上で努力しておけばよかったという悔いはあります。

 20歳になるというのは、僕にとっては身体だけでなく、考え方も大人にならなきゃという感覚がありました。應武(篤良)監督とお酒も一緒に呑みましたし......僕は覚えていないんですが、監督から「ハンカチ王子を卒業しろ」と言われていたらしいですね(笑)。たぶん監督としては、ここで一皮むけるんだぞ、と檄を飛ばす狙いがあったんじゃないかと思います。3年になって、ここからプロに行くまでの過程は、もう名前で勝負するんじゃなくて、野球選手として実力で勝負するんだぞ、という思いが監督にもあったんでしょうね。

 もちろん僕はずっとそう思っていましたし、だからもっとスピードも上げたい、変化球も増やしたい、コントロールもよくしたい、スタミナも上げたいし、もっともっと自分のなかでの幅を広げないといけないと思っていました。そこに20歳という年齢がかけ合わさって、現状で満足してはいけないという焦りのようなものに追い立てられていた。大学に来てできることがたくさんあるはずなのに、全然できてないと常に思っていました。

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 何かをやらなければという焦りが、もっとスピードを上げようという目標につながり、斎藤は誰の目にもわかりやすい"150キロ"という数字を掲げた。しかしスピードだけにフォーカスしたトレーニングが災いし、股関節を痛めてしまう。これがのちの野球人生にとてつもない悪影響を及ぼすことになってしまった。

(次回へ続く)

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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