ヤクルト髙津臣吾監督「日本シリーズは悔しさしかなくて、記憶が曖昧で...」。真中満と語らう激闘。数少ない鮮明に覚えているシーンとは? (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • 田中 亘●撮影 photo by Tanaka Wataru

【層が厚く、レベルが高かったオリックス中継ぎ陣】

真中 シーズン中にも「一番・山田」でオーダーを組んで、彼が先頭打者ホームランを打った試合(8月14日、対横浜DeNAベイスターズ戦)もあったけど、日本シリーズの大舞台で山田を一番に起用して、しかも殊勲のスリーランホームランを放って勝利した。まさに、監督冥利に尽きる采配でしたね。

この記事に関連する写真を見る髙津 僕としては、そのホームランの前のセカンドへの内野安打が本当にうれしかったですね。当たりは決してよくなかったけど、哲人にとってのシリーズ初安打。そうしたら、そのあとにスリーランホームランですからね。

 いい意味で、「あぁ、こんなもんなんだな」って思いましたね。それで、「よし、この作戦は今日で終わりだ」と思って、翌日から哲人を三番に戻したけど、そのあとはうまくいかなかったですね。

真中 そこは髙津監督ならではの決断だと思いましたね。2勝1分で迎えた第4戦は0対1で敗れましたけど、ポイントとなったのは5回表一死三塁、ヤクルトの攻撃の場面で相手が山岡泰輔から、宇田川優希にスイッチ。連続三振を喫して無得点に終わった場面でした。

髙津 確実に三振を奪いにきて、まさにその術中にハマってしまった。あの場面で見事に結果を残した宇田川投手は立派でした。もちろん、犠牲フライが理想ではあったけど、とにかくバットに当てて前に飛ばすことができれば、また違う結果になったという気もします。ただ、あれだけの投手に対して、野手に「すぐに対応しろ」というのは酷な話だとも思います。

真中 この場面に象徴されるように、オリックスの中継ぎ陣は相当手強いと思いました。ベンチから見ていても、ビハインドで試合終盤にもつれこむと大変だという思いもあったのではないですか?

髙津 ベンチのホワイトボードには相手選手のリストが書かれているんですけど、オリックスの中継ぎ陣を見ると左投手がひとりもいないんです。さらに、第6戦、7戦はベンチに9人の投手を待機させていました。

「この強力中継ぎ陣がいれば、左投手なんていらないですよ」という層の厚さ、レベルの高さは本当にすごいなと感じていました。

真中 そうなると、とにかく序盤でリードしないといけないという思いになるし、それが焦りやプレッシャーにもつながるという悪循環になりますね。

髙津 あれだけパワーピッチャーがそろっているのは本当にすごかった。タイガースもリリーフ陣がいいけれど、オリックスはそれ以上だったと思いますね。平野佳寿投手のように技術でかわすピッチャーもいたけど、それ以外はみんなパワーピッチャーで、空振りを奪えるストレートに加えて、それぞれいい変化球も持っていた。本当に難しかったです。

真中 第5戦は吉田正尚の強烈なサヨナラホームランが飛び出して敗戦。これで、2勝2敗1分となりました。神宮球場に戻ってくる第6戦以降は、また次回に伺います。

最終回<真中満が髙津臣吾監督に問うヤクルト初リーグ3連覇へのプラン。三番・山田哲人、四番・村上宗隆は「変えない」「優越感があるふたり」>につづく

【プロフィール】
髙津臣吾 たかつ・しんご 
1968年、広島県生まれ。広島工高、亜細亜大を卒業後、1990年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。守護神として活躍し、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年、MLBシカゴ・ホワイトソックスへ移籍。その後、ヤクルト復帰や、韓国、台湾のプロ野球、独立リーグ・新潟アルビレックスBCを経て、2012年に現役引退。ヤクルトの一軍投手コーチや二軍監督を務めたのち、2020年から一軍監督に就任。2021年は日本一、2022年はリーグ連覇を達成。

真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、08年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。15年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。

【著者プロフィール】
長谷川晶一 はせがわ・しょういち
1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て、2003年からノンフィクションライターとして、主に野球をテーマとして活動。2005年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。主な著書として、1992年、翌1993年の日本シリーズの死闘を描いた『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『プロ野球語辞典シリーズ』(誠文堂新光社)、『プロ野球ヒストリー大事典』(朝日新聞出版)。また、生前の野村克也氏の最晩年の肉声を記録した『弱い男』(星海社新書)の構成、『野村克也全語録』(プレジデント社)の解説も担当する。

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