広澤克実が驚愕した「これぞ魔球」10選。「顔付近に来たボールが外角に決まるなんて...打てるわけない」 (5ページ目)

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Koike Yoshihiro

【遅いけど速い和田毅のストレート】

 2003年の阪神とソフトバンクの日本シリーズ第7戦、9回表二死から私はプロ1年目の和田毅(現・ソフトバンク)から代打本塁打を放ち、プロ19年の最終打席で有終の美を飾らせてもらった。

 プロ1年目に14勝を挙げた和田だが、2年目以降もすごかった。そして和田と同じ年の杉内俊哉、さらに現役では阪神の岩崎優。この3人に共通するのは、左腕で「遅くても速い」不思議なストレートを投げることだ。

 実際、左腕投手で速かったのは石井一久だが、和田のストレートはその石井よりも速く感じた。スピードガン表示は140キロ程度だが、それでも多くの打者が差し込まれていた。

 よく「ボールの出どころがわかりづらい」「球離れが遅い」ことが原因と言われているが、この目を錯覚されるものの正体はいったい何なのか......物理的なメカニズムが科学的に解明できれば、野球界に革命が起こるだろう。

【全球種が魔球のダルビッシュ有】

"魔球"の総合力トップは、やはりダルビッシュ有(現・パドレス)だ。11個の球種を持ち、そのなかで「どれが一番すごい」という単純な話ではなく、左右に変化させても、落としても、何を投げても精度が高い。11個の球種すべてカウント球にもウイニングショットにもできる。こんなことができる投手が存在するという現実に驚いてしまう。

 思い出すのが日本ハム時代の2009年、巨人との日本シリーズ。左臀部のケガで久しぶりの登板となったダルビッシュだが、いつもは多投しないスローカーブを有効に使い、勝利投手となった。あの器用さには感心するばかりだ。

 12年にメジャー移籍を決めた理由として、「『次の試合で投げてくれるな』と相手打者に言われることが多く、日本球界でモチベーションを保つのが難しくなった」という主旨のコメントを述べていたが、私はそれを言った打者の気持ちがよくわかる。実際、試合前だったら、思わず口にしてしまいそうなくらい、ダルビッシュは傑出していたということだ。

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