斎藤佑樹が甲子園決勝で田中将大に抱いた複雑な感情「投げるボールは敵わないけど、エースとしては負けていない」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Okazawa Katsuro

 ただ、これはちょっと複雑な心境ではあるんですが、それだけすごいピッチャーだとわかっていながら、あの夏の決勝に関して言えば、僕はマー君に負けていないと思っていたところもありました。

 僕は2試合とも先発しましたが、マー君は2試合ともリリーフです。もちろん駒苫の香田(誉士史)監督の考えがあったのはわかっていますが、僕としては背番号1同士、先発で投げ合いたかった。だからその時点で、僕の相手はマー君じゃない、駒苫というチームだという意識が強まっていたんだと思います。投げるボールでは敵わないけど、エースとしては負けていない......そんな感じでしょうか。

最後は144キロのストレート

 世間の人たちがマー君と僕を並べてくれていると感じたのは、夏の甲子園が終わってからです。周りの人たちの反応や報道を見て、「そうか、世の中の人はこうやって見ているんだな」と思いました。メディアの人たちの前で「マー君、佑ちゃん」と呼び合うように言われた頃は、「もう、別にいいや」と思っていたと思います。そのほうがラクでしたから(苦笑)。

 決勝再試合、9回ツーアウトで、バッターはマー君。

 その初球は、スライダーが少し高く入ってしまいます。それをマー君が思いきって振ってきて、ファウル。2球目、今度はスライダーが低めのストライクからボールゾーンへ落ちて、またも振ってきて空振り。これでツーストライクと追い込みました。3球目はスライダーがやや内側に低くいって、ファウル。マー君はとにかく積極的に振ってきます。

 そして4球目、僕はストレートを投げました。球速は147キロです。延長15回を含んだ4連投で、すべてひとりで投げてきて、この夏の945球目......そのストレートのスピード表示が147キロだったことで、甲子園はどよめきました。

 ただ、僕にとってあの147キロは投げられて当然の1球でした。正直、もっと出ているんじゃないかと思ったほどです。そのくらい、ピッチャーとして研ぎ澄まされた感覚がありました。

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