「もしあの出来事がなければ...」。10年ぶり夏の甲子園を決めた早実・斎藤佑樹が感謝する泥だらけの指揮官からのメッセージ (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

尋常じゃないくらい冷静だった

 10回表、ノーアウト1、2塁から(8番の岩間聖悟が)送りバントをしてきたのですが、3塁方向に転がったボールを捕った僕は、クルッと回ってすかさず3塁へ投げました。完全にアウトのタイミングでしたし、あれは得意としていたプレーです。にもかかわらず、それが悪送球になってしまいました。投げる瞬間、変な間があってボールが引っかかったんですよね。それで2塁ランナーが一気にホームへ還って、3−4と勝ち越されてしまいます。

 自分のミスで点をとられて、さらにノーアウト1、2塁のピンチが続いて......それでも僕は、すぐに次のことを考えていました。

 周りからは「表情が変わらなかった」と言ってもらいましたが、あの時は、表情を変えないようにしよう、という意識さえもありませんでした。2年の夏が終わってからはマウンドで感情を出してはダメだと意識してコントロールしようとしていた時期がありましたが、三高との決勝ではそれを意識せずにできるようになっていたのかもしれません。

 暴投して1点は勝ち越されましたが、次を抑えることが勝つために最善のことだと切り替えて、目の前のバッターを抑えることだけに集中していたんです。あの心の持ちようは、自分でもよくできていたなと感心します(笑)。

 高3の夏の僕は、尋常じゃないくらい冷静だったんでしょうね。もっとも得意な、しかもイージーな、相手のチャンスの芽を摘みとることができたプレーであんなミスをしたら、「やってしまった」「もったいなかった」って絶対に引きずる類のミスですよね。なのに、「ハイ、次」といった感じですぐに切り替えられた。いま思い出しても、不思議な感覚です。

 その回のピンチはツーアウト満塁から3番バッター(佐藤健太)をショートゴロに抑えて切り抜けました。それが1点を追った10回裏の同点劇につながります。

 ワンアウトから代打の神田(雄二)の打球にセンターが飛び込むも捕れず、これがツーベースヒット。続く1番の川西(啓介)が打ったライナー性の打球に今度はレフトが飛び込むもまたも捕れず、神田が還って4−4の同点です。

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