松坂大輔も追い求めた幻の一球。水島新司さんの名作に込められた「真のプロ野球のあり方」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

「僕が自分のなかで今日はスゴいなって感じる時は、自分でボールを前のほうで離すところが見えますからね。そこまで腕がついてくるというか、腕が前に出てくる。そういう感覚の時は右バッターのアウトコース低めにビシビシ決まります。球の勢いがすごくて、力のある球ばっかりで、もう打たれる気がしないんです。関東大会の時はそういう感覚でした。あれは、すべてのバランスが揃って投げられた一球だったのかもしれません」

 松坂はできるだけ前でボールを離し、しかもできるだけ強くボールを放ろうとした。それができればストレートのキレは増し、速くなる。そのために左足の使い方を変えた。より力をためこむために、上げた左足を内側にひねり込もうとしたのだ。それが、結果的にはよかったはずの松坂のバランスをわざわざ崩してしまう原因ともなった。

「今までと同じじゃ打たれると思って、じゃあ、何を変えていこうか、何か違ったものを見つけようかというところでいろいろ自分で探して......その結果、やろうとしたことはよかったんですけど、方向は違っていたのかもしれません。『光の小次郎』を全巻読んで、『あぁ、これ、オレと一緒だ』って思って、わけわかんなくなった(笑)。投げれば点を取られるし、毎試合のようにホームランを打たれるし、とにかくボールが真ん中に集まって大事なところでコースに投げ分けることができなかった。あの時は"光るボール"というより、"火を噴くボール"を投げようとしていたんですけどね(笑)」

 現状に飽きたらず、"光るボール"を追い求めた松坂の姿を、まるで予言者の如く、水島新司さんが20年も前に描いていた。"水島ワールド"はこうして今も昔も、そしてこれからも、すべての野球人によって受け継がれていくはずだ。

 水島さんは『光の小次郎』の冒頭で、この漫画を描く想いを記している。以下はその抜粋である。

野球──
いったいこのゲームの何が男たちをかりたてるのか
記録 勝敗 ルール・・・・それらの中に
ドラマがあり 球のゆくえを追う男たちの
眼の中に人生がある
幾多の男たちが栄光と挫折の中で生き
闘い そして消えていった
今 私は その男たちの姿をかりて 真の
プロ野球のあり方をここに問うものである
水島新司

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