向上心の塊。西武ドラフト4位・川野涼多に漂う「本物」の匂い

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Nikkan sports

 今年10月のドラフトで西武から4位指名を受けた九州学院の川野涼多。そんな川野について、今でも忘れられないシーンがある。

 川野が新2年生になる春の熊本大会。次の試合に登場する九州学院のメンバー表を見ていたら、下級生でひとりだけ1ケタ台の背番号6をつけている選手がいて、それが川野だった。

西武からドラフト4位指名を受けた九州学院の川野涼多西武からドラフト4位指名を受けた九州学院の川野涼多 どんな面構えをしているのか見ようと思って、スタンドで試合観戦している九州学院の選手たちの近くまで行ってみた。ほとんどの選手が背中を丸めて前かがみで試合を見ているなかで、背番号6だけはシュッと背中を伸ばして観戦していた。

 7回が終わると、次の試合に備えようと球場裏でアップするために選手たちが次々と席を立つなか、川野だけはジッとグラウンドを見つめたまま、その場から動こうとしない。

 さりげなく川野の近くに座って表情をのぞき込むと、真剣な眼差しで試合を見ていた。そして試合が終了すると「よしっ」と小さくつぶやき、席をあとにした。

「コイツはちょっと違うぞ......」

 何十年も野球を見ていると、直感めいたものを感じる時がある。野球に対する真摯な姿勢、自らの意志を貫ける度胸......間違いなく"本物"の匂いがした。

「準備の時間を減らしてでも、次の試合のために観察しておきたいことがあったのでしょうね」

 九州学院の坂井宏安監督は、野球部の監督としてだけでなく、クラス担任として3年間、川野を見てきた。

「川野は指示待ちの子じゃないです。向上心の塊みたいな子で、自分にとっていま何が大事なのか、優先順位をつけられる。それにウチは、上級生に遠慮するような雰囲気のない野球部なんです。そういうのも川野には合っていたのかもしれないですね」

 この日の試合で川野は、左打席からシングルヒット2本とライトオーバーの二塁打の計3安打を放ち、ショートの守備でも柔軟な全身の連動から安定したフィールディングを見せた。

 ヒット以上に驚いたのが、左投手が投じた低めのストレートを軽いスイングからライトポール上空にライナーで消えていった打球だ。ファウルにはなったが、頭が動かず、鋭く体の回転だけで振り抜けるスイングは、まもなく高校2年生になる選手のそれには見えなかった。

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