失われたスピードを求めて。楽天・安樂智大「剛腕」への再挑戦

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 先頭の佐藤拓也(立教大3年)にはストレートが抜けて4球で四球。スライダー、フォークを駆使してアウトを2つ取るものの、二死二塁からボークを犯し、学生屈指の強打者・茂木栄五郎(早稲田大4年)にはしっかりと芯でとらえられ、強烈なファーストライナー。かろうじて無失点に抑えたが、薄氷を踏むような投球だった。この日、2万649人が詰めかけた神宮球場で最も大きな歓声を浴びたのは安樂ではなく、最速153キロをマークしてプロ相手に4回8奪三振、完璧に抑え込んだ田中正義(創価大3年)だった。

 安樂はまだ18歳。もちろん、まだ焦る年齢ではない。だが、果たして今の安樂に光明を見出すことはできるのだろうか? そんなことを考えていると、この日捕手を務めた清水優心(日本ハム)が意外なことを口にした。

「5月にファームで対戦しましたけど、今日受けてみて思ったよりスピードがあって良かったです。対戦した頃よりスピードは上がっていると思いますよ。(一番良かった球は?)ストレートです。高めも低めも質が良かったです」

 5月の安樂との対戦で、清水は右中間に二塁打を放っている。当時に比べると、徐々にストレートのスピードも質も上がってきているという。高校時代の「157キロ」の印象が強すぎるせいか現状に物足りなさを感じてしまうが、安樂も試行錯誤を重ねながら状態を高めていることがうかがえた。

 そしてユニバーシアード日本代表との試合後、記者会見を終えた安樂が帰り支度を済ませてベンチから出てきた。

「あ~、調子悪かったです。いっつも言ってる気がするけど(笑)」

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