阪神ドラフト1位・横山雄哉が持つ「天賦の才」

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

「すみません。社会人に入って4カ月になりますが、スピードが10キロ速くなったんです!」

 もっと、早く言ってよぉ......と思ったが、スピードが原因じゃない。球持ちの良さ、切り返しの速さがタイミングを狂わせるのだ。「アッ」と思ったらボールが来ている。まさにそんな印象だった。おそらく松山フェニックスの打者たちも、横山の快速球に圧倒されたのだろう。

 この横山のように、「アッ」と思ったら来ているのは、130キロ後半から140キロ前後の球をアベレージにしている投手たちだ。対戦する打者に「速いぞ」という意識をあまり持たれていない投手たちに多い。これまで何人もの投手たちの球を受けてきたが、逆に140キロ後半を投げる投手にこうした体験をしたことがない。あらかじめそれだけのスピードを想定しているから、速いと感じることはあっても、タイミングが遅れることはない。

 昨年のドラフトで阪神から1位指名を受けた横山は、そんな「アッ」と思ったら来ている球を高校の時から投げていた。どう見ても、140キロぐらいは出ているストレートが、スピードガンでは130キロに満たない。だが、その130キロに満たないストレートでも十分に空振りを奪うことができていた。

 だが、高校2年の時は春夏連続甲子園出場を果たすも、ともに初戦敗退。特に春のセンバツでは日大三高の重量打線に18本のヒットを許し、13点を奪われた。それでもベース付近で伸びるストレートは魅力的だった。何より、左腕がゴムでできているようにビョーンと伸びて見える腕の振りは、この投手だけが持つ"天賦の才"に思えた。

 昨年の夏、久しぶりに見た横山の体は完全に変わっていた。都市対抗のマウンドで躍動していた横山の姿に、あのセンバツのマウンドでだんだんと背中を丸めるように投げていた"か弱さ"はなかった。骨がユニフォームを着ているような高校時代と違い、筋肉がユニフォームの内側を押しているような"分厚さ"があった。

"山形中央の横山"から"新日鉄住金鹿島の横山"になっていた。選手はここが肝心なのだ。新しいステージに上がったら、以前とは別の姿と雰囲気を見せなければ「本物」と言えないと思っている。スピードガン表示も、コンスタントに140キロ前半をマーク。わかっていても、なかなか打てないストレート。プロの世界でメシが食えるボールになっていた。

 昨年、阪神はドラフト6位の岩崎優が先発として4勝を挙げ、貴重な左腕としてチームに貢献した。その岩崎をひと回り力強く、ダイナミックにしたのが横山だ。あと変化球のコントロールをもう少し上げれば、間違いなく他球団が手を焼く投手になるはずだ。その先には"新人王"だって......。ちょっと気の早い話だが、それだけの可能性を十分に秘めた投手であることだけは断言できる。

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