「日本一の三塁コーチ」高代延博が阪神を変える (2ページ目)

  • 高森勇旗(元横浜DeNAベイスターズ)●文 text by Takamori Yuki
  • 日刊スポーツ●写真 photo by Nikkan sports

 あのイチローでさえ、「走塁は野球で最も難しい技術」という持論を展開し、名将・野村克也氏も、「チームへの貢献度が一番分かるのが走塁」と語る。高代氏が務める三塁ランナーコーチというポジションは、1点を奪う大事な判断を任される場所であり、その難しさから、技術や経験、決断力など様々なものが求められる。

 さらに、作戦のサインを出す役割も担い、その責任は大きい。そんな大役でありながら、前述した野村氏に、「高代のサインだけは見破れない。分からん」と言わしめたほどだ。正確な判断、走者への指示などを含め、「日本一の三塁コーチ」と評価される、それが「高代コーチ」という人物だ。

「そういう評価をされるのはありがたい話やけど、オレはそんなことを思ったことは一度もない。誰かが失敗しているのを見て、『あぁ、明日は我が身やな』といつも思うとる。いつも緊張して(三塁コーチャーズボックスに)立っとるよ」

「ひとつのミスが命取りになる」――。試合の命運を握ってきた男だからこそ言える、究極の謙遜。高代氏の言葉のひとつひとつ、所作のひとつひとつに「古き良き職人」の雰囲気を感じてしまう。

 また、高代氏は走塁だけでなく、高いノック技術を持っていることでも有名である。

 こんな伝説的な逸話が残っている。広島カープのコーチ時代、北別府学氏が「5球ノックを打って、何球レフトポールに当てられるか勝負しよう」と挑んできた。勝負を受けた高代氏は2球連続でポールに当て、たまらず「ライトポールに変更しよう」と言った北別府氏をあざ笑うかのように、これも1球で当ててしまったのだ。3球連続で当てられた北別府氏は、勝負することを諦めたという。

 その高いノック技術で、これまでに多くの名プレイヤーを育ててきた。2006年に阪神でフルイニング出場の世界記録を更新した金本氏は、その記者会見で、「広島時代に大きな影響を与えてくれた3人」の名を挙げたが、「守備と走塁を根気よく教えてくれた人」として高代氏の名を挙げるなど、多くの名選手からも慕われている。

 守備の話になると、遠くを見ていた目が一転、グッと私の目を見つめ、身振り手振りを交えて話してくれた。

「ノックを打つことでも何でも一緒。数をこなせば必ずうまくなるんや。守備も一緒。たまに、あいつはセンスがないとか言う人もおるけど、それは教える人間のセンスがないだけ。守備は必ずうまくなる。ポイントは"線"。ボールをキャッチするポイントは一点じゃない。捕る前からずっとグローブの中身がこっち(ノッカー)に見えているヤツは、"線"でボールを捕れる。捕る瞬間になってグローブの中身が見えるヤツは"点"や。ここがまずポイントやな」

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