ついに才能開花。梶谷隆幸はDeNAの救世主となれるか? (2ページ目)

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • photo by(C)YOKOHAMA DeNA BAYSTARS

 しかし、梶谷のすごさはそれだけではない。2010年、イースタンで盗塁を積み重ねている時、ふとした折に盗塁の話になった。すると梶谷は、スタート、歩数、スライディングなど、事細かに説明し始めたのだ。特に熱く語ったのが、スライディングについてだ。足を出すタイミングや位置、相手選手とのベース上でのやり取りを踏まえながら、話は長時間に及んだ。普段は細かい話をする人間ではないが、野球だけは別だ。ベンチにいる時も、相手投手のクセや捕手の配球、野手の動きなど、とにかくいろんなところに目がいく。そして時に、「次の打席、スライダーしか狙わんけぇ。見とってや」と大胆な行動に出る時もある。しかしこの発言も、しっかりと相手の配球の傾向を読んだ上で、狙いを決めているのである。身体能力の高さに頼ることなく、常に頭を使ってプレイする。これこそ、梶谷の最大の長所といえる。

 とはいえ、ここ最近の活躍は、正直、想像していなかった。能力を一気に開花させた原因は何だったのだろうか。

 昨年、自己最多の80試合に出場しながら、思うような結果を残せずにいた。そこで、昨年の試合の凡打の映像をチームのスコアラーに頼んで用意してもらい、徹底的に自身の課題を分析した。その結果、タイミングを外されての凡打が多いことに気付く。それから、動画サイトなどでメジャーリーガーのスイングを何度も見て、軸足に体重を残しながら回転で打つ打法に取り組んだ。そしてもうひとつ、梶谷の意識を大きく変えたのが、中村紀洋からの言葉だった。

 今年7月、練習前のグラウンド。毎日のように早く球場に来て、練習に励んでいる山崎憲晴と宮崎敏郎。ふたりが炎天下のグラウンドでノックを受けている最中、ウエイトトレーニングを終えて一息ついている梶谷に、中村はこう語りかけた。

「お前は練習しなくていいのか? 山崎や宮崎が毎日ああやって練習していて、お前はやらないのか? オレはお前に、もうこんなことは二度と言わない。お前の人生だ」

 練習したつもりではダメだ。誰もが認めるぐらい練習をしなければいけない。何より、自分自身が納得するくらいの練習をこなさないと......。この日から、梶谷の練習に取り組む姿勢が変わった。どんなに体がきつくても、とにかく練習することを自分に課していった。

 そしてバッティングに関しても、軸足で回転して打つ打法がようやく形になりつつあった時、またしても中村からの助言があった。

「バッターは、追い込まれるまで前に出されるようなスイングをしたら負けなんだ。ボールは黙っていても来るから、駒のように回って打つんだ」

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