【プロ野球】「人工知能搭載」のピッチングマシンが野球を変える!? (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 2005年の秋、神宮大会で駒大苫小牧の田中のピッチングを見た智弁和歌山高校の高嶋仁監督は、「このボールを打たんとセンバツでは優勝できない」と、来る日も来る日も田中対策に講じた。マシンを傾け、目に焼き付けた田中の高速スライダーを可能な限り再現。センバツでの対戦こそ実現しなかったが、夏の甲子園の準決勝でついに田中擁する駒大苫小牧と対決することになった。「この日のために半年以上やっていた」と智弁和歌山ナインも意気込んだが、自慢の打線は田中の前に沈黙。敗戦の後、選手たちは「やっぱりマシンとは球筋が違った」と繰り返した。だが昨年の秋、「Pitch18」を目の当たりにした高嶋監督は、「もう少し早く、このマシンに会いたかった」と、これまでにない球筋に驚き、悔しがったという。

 とはいえ、まだまだ課題も多い。そのひとつがフォークやチェンジアップといった、いわゆる「抜く系」のボールの精度が低く、現時点ではプログラムには組み込まれていないということ。この点に関しては、3つのドラムの回転数をうまく調整すれば可能と、今も研究を重ねている。

 そしてもうひとつ、特にプロからの意見として多かったのがタイミングの問題だ。「ウチのマシンは光を3段階に点灯させることで球が飛び出すタイミングを打者に知らせるのですが、シューター(筒状の部分)に転がるボールの時間や、マシンの横で投手役の人が振る腕でタイミングを取ることに慣れている打者にとっては、少し馴染みにくいのかもしれません」と現状を語ったが、今後普及さえすればこの問題は解決できるかもしれない。

 いずれにしても細かな改善点はいくつかあるだろうが、ある強豪校のコーチも「自分の貯金をはたいてでも買いたい!」とほれ込んだように、画期的な機能を備えたマシンであることは間違いない。定価600万円という価格が、普及を考えた時にいちばんの壁になるだろうが、この部分が何らかの形でクリアされていけば、野球界に大きな影響を与える可能性は十分にある。果たして「人工知能搭載」マシンが野球を変える日はやってくるのか、それとも……。この「Pitch18」の未来に注目していきたい。

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