大谷翔平を取材しつづけるアメリカ人記者が指摘「誰もが悩まされてきたこと」とは?

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

素顔が見えづらい部分が今回の問題ではマイナスとなっている photo by AP/AFLO素顔が見えづらい部分が今回の問題ではマイナスとなっている photo by AP/AFLOこの記事に関連する写真を見る

「大谷翔平とは何者か?」アメリカ人記者4人の視点:後編

前編>>大谷翔平を取り巻く問題へのアメリカ人記者の視点

 大谷翔平をこれまで取材し続けてきたアメリカ人記者4人は、水原一平・元通訳の違法賭博問題に対する大谷の対応をどのように見ているのか。禁欲的なまでの野球への取り組み、これまでのクリーンなイメージは、誰もが認めるところだが、それでも今回の問題に内在する疑問に対して大谷が明確に答えていないことも事実だ。日本的な対応、求められるアメリカ的な対応の間で議論が行き来するなか、日本文化に理解度の高いベテラン記者の考察はどのようなものなのか?

【日本文化への理解の深い記者の視点】

 ビル・プラシキ記者と同じ『ロサンゼルスタイムズ』紙のもうひとりのコラムニスト、ディラン・ヘルナンデス記者はロサンゼルス育ちだが、母親が日本人で、日本語は普通に喋れるし、日本文化への理解も深い。

 UCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス校)卒業後、スポーツ記者になり、黒田博樹がドジャースで投げていた頃に、同紙で球団の番記者になった。黒田とは良い関係を築いたし、2017年に所属したダルビッシュ有(現 サンディエゴ・パドレス)ともそれが縁で信頼関係が結ばれている。大谷の代理人、ネズ・バレロとも長い付き合いだ。今はコラムニストではあるけれど、球界関係者と太いパイプを維持しており、米国の人たちに大谷について語れる最良のジャーナリストのひとりだと思う。

 ヘルナンデス記者は、3月26日のコラムで「大谷翔平とは何者なのか?」と綴った。

 記者会見で大谷は、「スポーツに賭けたことはないし、違法なブックメーカーへの支払いを承認したこともない」と説明した。しかしながら重要な問いに答えていない。水原がどのように銀行口座にアクセスしたのか? 大谷の財務を見ていた人物が数百万ドルの支払いに気づかなかったのは、なぜなのか? 話には詳細さが欠けていた。そしてこのことは、「今回の会見に始まったことではなく、彼がMLBに来てからの6年間、誰もが悩まされてきた謎だ」とヘルナンデス記者は指摘する。

 大谷は彼を取材するジャーナリストだけでなく、フィールドを共有する選手からも距離を置いてきたからだ。プライベートな部分はほとんど何も知られていない。だから3月、韓国で行なわれた対パドレスのソウルシリーズの記者会見で結婚について尋ねられた時、隣に座っていたフレディ・フリーマン一塁手が耳をそばだてて「これは聞かないと」と冗談っぽく言った。

 プライベートについて語るか語らないかは、もちろん本人に選ぶ権利があり、本人が望む以上に他者と共有する義務はない。しかし大谷がこれまで語ってこなかったことは、今回の件ではデメリットがあった。ほとんどの人が大谷の素顔を知らないから、今回の説明だけでは大谷の言葉を信じられなかったのだ。

 ヘルナンデス記者は、大谷の野球への純粋な取り組み方についても報じている。

 北海道日本ハムファイターズでプレーしていた頃、プロ入りから2年が経ってもチームの寮から出て行かなかった。花巻東高校の佐々木監督は「ほかの誰もが自分の場所に引っ越し、彼女を呼びたいと思う。しかし彼はそうではない。トレーニングができる場所の近くにいたいだけ」と説明していた。監督は大谷のメジャー挑戦を2年遅らせるように説得もしたという。契約金で2億ドル(約300億円)以上の損失をもたらす可能性があったからだ。

 しかし大谷は、すぐにメジャーリーグに移籍した。野球以外のことに興味がないから、お金についても無関心。これで水原が数百万ドルを盗んでも気づかなかった理由を説明できるのかもしれない。一方で3月21日のコラムではこうも指摘した。

「大谷ももうすぐ30歳になるのだから、それに相応しい振る舞いを始めなければならない」と。「これまでは野球場でのパフォーマンス以外の責任をほとんど負ってこなかった。だから水原に完全に依存してしまった。今後このようなことが再び起きないようにする必要がある。なぜならスキャンダルはパフォーマンスに影響を与えるからだ」。

 的を射る指摘だと思う。大谷はドジャースと10年契約を結んだ。ヘルナンデス記者は40代で、これからも『ロサンゼルスタイムズ』紙で健筆をふるい続けるのだろう。今後も彼の記事を通して、大谷の良い面も、足りない部分も、正しく米国の人々に伝わっていければいいと思う。

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