大谷翔平とドジャースは「王朝」を築けるか ワールドシリーズ優勝へ見本となる球団は? (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

【フィリーズに見る成功例】

 難しいのはレギュラーシーズンで強いチームを作ることと、ポストシーズンで勝てるチームを作ることは同じではないということ。そんな中、気になるのがナ・リーグ東地区のフィラデルフィア・フィリーズだ。レギュラーシーズンは強くはない。22年は8775敗の第6シードで辛うじてポストシーズンの出場権を得て、そこからワールドシリーズまで勝ち進んだ。23年は9072敗の第4シードで、そこからナ・リーグ優勝決定シリーズに進出した。いずれもその過程で戦力的には上だったアトランタ・ブレーブスを破っている。デーブ・ドンブロースキー編成本部長は、フロリダ・マーリンズ、デトロイト・タイガース、ボストン・レッドソックス、そしてフィリーズの4球団をワールドシリーズに進出させ、2度世界一を成し遂げた。公式戦とポストシーズンの野球は別物と見なし、10月に勝てるチームを作ると言われている。

 まずは打線。1番にカイル・シュワバーを置いている。23年の公式戦は打率.197215三振で低打率の三振王だったが、同時に47本塁打、104打点、108得点をマークした。四球も126個選んだ。低打率の三振王は長年悪い打者の見本と見られてきたが、フィリーズはそうは考えない。大事なのはいかに得点を生み出すか。ほかにもブライス・ハーパーはじめ、一発のある打者が並ぶ。以前はメジャーでもポストシーズンは好投手が次々に出てくるからホームランを打つのは難しい、ゆえにヒットを狙って、走者を進め、確実に1点を取りに行くのが良いとされていた。しかし近年の投手は球速が年々上がり、鋭い変化球も交えてバットに当てさせない。だから連打は望めない。22年のポストシーズン打率は全体で.211だった。それより三振が増えても構わないからボールをしっかり見て、本塁打か三振か四球かのアプローチを取る。シュワバーのポストシーズンの成績は、22年は55打席で打率.218、出塁率.392、長打率.546、6本塁打、10打点、18三振、15四球だった。23年も47打席で打率.255、出塁率.386、長打率.660、5本塁打、6打点、17三振、9四球だった。しっかり得点に絡んでいる。

 投手陣には、ドンブロースキー編成本部長はパワーピッチャーを集める。タイガース時代はジャスティン・バーランダーとマックス・シャーザー、フィリーズではザック・ウィーラーとアーロン・ノラだ。ブルペンにもホセ・アルバラードなど90マイル台後半(160km前後)の速い球を投げる投手を揃えている。バットに当てさせず、点も与えない。

 首脳陣が気を付けるのはレギュラーシーズンで登板過多にならないこと。長いシーズン、体調管理を徹底し、10月に一番良い状態で臨めるように調整に務める。フィリーズはドジャースやブレーブスよりも選手層は薄いし、ゆえにシーズン100勝はできない。しかしそこは割り切ってポストシーズンに焦点を合わせるのである。

 冒頭で書いたようにドジャースのフリードマン編成本部長は「我々のゴールは10月に11勝すること」と言っている。果たして大谷を加え、ドジャースは解決策をどう見出していくのか。大谷はドジャースの勝利への明確なビジョンを高く評価している。

「一番大事なのは全員が勝つために、同じ方向を向いていること。オーナーグループ、フロント、チームメート、ファン、みんながそこに向かっているのが大事」と話し、「まず優勝することを目指しながら、欠かせなかったと言われる存在になりたい。そういう期待を込めた契約だと思う、期待に応えられるように全力で頑張っていきたい」と続けた。

 21世紀、NBAではレイカーズ、マイアミ・ヒート、ゴールデンステイト・ウォリアーズが連覇を達成し、NFLもニューイングランド・ペイトリオッツが連覇を含む6度の優勝を成し遂げている。

 果たして"大谷ドジャース"は歴史を創れるか。新たな挑戦が始まる。

◆大谷翔平&ドジャーズの未来考察・前編>>

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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