大谷翔平の無垢で自由な「野球ルネサンス」 97%が後払いのスポーツ史上最高契約の中身 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

【大谷がもたらす「ルネサンス」への大いなる期待】

『スポーツイラストレイテッド』誌のトム・ベデューチ記者も、「大谷はお金より勝つことにこだわる人間だ」と報じている。

 12月1日、ドジャースの本拠地であるドジャー・スタジアムを訪問し、球団のスタッフに会った時のことだ。大谷は選手育成の取り組み方や、傘下のマイナーシステムがどうなっているかを聞いた。長期的に成功できるチームかどうかを確かめたかったからだ。加えて大谷がどれだけお金があったとしても、楽しみにしていることはたったのふたつで、ひとつは野球をプレーすること、もうひとつはそのためのトレーニングをすることだと聞いてみんなが衝撃を受けた。

「彼は29歳だが、その年齢よりもずっと若く、青年のように野球を愛している。我々は何が彼のモチベーションになっているかを知りたかったが、シンプルに野球をプレーすることだった。とても清々しい気分になったし、より契約したいと思った」と球団関係者は明かしている。

 こういった無垢で自由な姿勢が、競技そのものや、そこでプレーする選手像の可能性を広げ、人々の心を打つ。ジャクソンはMLBとNFLの両方でオールスターに選ばれた初のアスリートとなり、当時のファンも、ビジネス界も、パワフルなパフォーマンスに熱狂した。スポーツメーカーのナイキは1989年、創造力を膨らませ「BO KNOWS(ボーはなんでも知っている)」で、クロストレーニングシューズの広告キャンペーンを展開して大当たりした。野球とフットボールだけでなく、テニス、ゴルフ、リュージュ、カーレースなどあらゆるスポーツを知っているという筋書きで、当時の米国ではテレビをつければ朝から晩まで「BO KNOWS」のコマーシャルが流れていた。

 大谷は今回世界一の契約を結び、強豪ドジャースに入団したことで、さらに注目度が増す。スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』のケン・ローゼンタール記者はそのことを大歓迎し、大きな期待を寄せる。

「大谷はMLBの最大のスターで、超越的な存在になり、この何十年なかったほど、球界に話題を提供している。彼がより大きなマーケットのチームに入ったことで名声はさらに広がる。野球界は大谷と共にルネサンス(再生、復活)に向かうだろう」

 MLBの画期的な契約といえば、大谷の前は2000年12月にA・ロッドこと、アレックス・ロドリゲスがテキサス・レンジャーズと結んだ10年総額2億5200万ドルだった。当時、スポーツ史上最大の契約として、世界中で話題になった。そのA・ロッド(現在48歳)もX(旧ツイッター)で「翔平、おめでとう。大きな変化だ。これからも野球を前進させてくれ」と祝福している。

 1994年7月、大谷が生まれた月にジャクソンはエンゼルスのユニフォームを着てプレーしていた。かつてのスピードはないが、パワーは健在。その月は3試合連続を含む5本塁打。そのシーズンはストライキで8月に終了したが、75試合に出場、打率.279、13本塁打、出塁率.344と悪くない成績だった。だが、31歳でユニフォームを脱いだ。

 大谷は39歳のシーズンまで契約した。ドジャーブルーのユニフォームに身を包み、毎年ポストシーズンに出て、ジャクソンの分まで二刀流で暴れ続けてもらいたい。MLBの野球がもっと面白くなるよう牽引車の役割を果たすのである。

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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