菊池雄星が「これでダメだったらダメでしょ」と臨んだメジャー5年目 2つの欠点を改善して掴んだ二桁勝利 (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Getty Images

【昨シーズンとは別人】

 あれから1年――。今季ここまでを振り返ると、昨シーズンとは別人のような数字が並んでいる。6月は5度の登板で防御率2.28と波に乗ると、オールスター以降の13登板で防御率3.25、被打率.252と安定。シーズンを通して見ると、与四球率が昨季の5.19から今季は2.55、被本塁打率が同2.06から1.44と大きく向上し、「与四球と被本塁打の多さ」という、これまで指摘されてきた欠点に改善が見られるのが何よりも大きい。

「カーブを上手に使っている。変化球で安定した形でストライクが取れるようになったから打たれなくなったのか、球のキレが増したから思い切ってストライクゾーンに投げ込めるようになったのか。そのどちらかを特定するのは難しいが、菊池の潜在能力が開花し始めた感がある」

 某MLBチームのスカウトは菊池の変化をそう分析してくれたが、実際に今季の菊池は主武器のひとつだったカッターを投げなくなった代わりに、過去3シーズンはほぼ使わなかったカーブを全体の18.9%の割合で投じている。6月中旬、カーブを多投するようになった目的を菊池自身もこう話していた。

「スライダー、チェンジアップは球速88から90(マイル)ぐらいで球速差が小さいため、速球の後に投げても打者に当てられてしまうケースが多かったんです。そこに82、3マイルのカーブが入ってくると、相手打者のミスショットも増えたり、ウィークコンタクト(弱い打球)も増えていく。今はうまく散らせながら、というのをテーマにやってます」

 先ほどのスカウトの言葉通り、90マイル台後半の速球と82〜83マイルのカーブで緩急をつけ、打者の的を外せるようになったことで制球面でも余裕が生まれたのか。それともコントロールがよくなったから、このような組み立ても生きているのか。どちらが先だったのかを判断するのは難しいが、いずれにせよ、ついに向上の術を見つけた32歳の左腕が、メジャー5年目にして自己最高のシーズンを過ごしていることは間違いない。

「いろんな経験をしたので、悔しさをオフシーズンに(ぶつけました)。オフはとにかく24時間、野球のことを考えて、やれることはすべてやった。『これでダメだったらダメでしょ』っていう感じで開き直れたんです。それくらいのことはやったから、結果はついてくるでしょっていう感じで、楽しんでやれています」

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