がん闘病中のダルビッシュ賢太が今、病床から訴えたいこと「たぶん、俺、病気してよかったんです」 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Darvish Kenta

 それがたぶん、形にはなってきてるんですよ。本当にね、長い時間はかかったけれど......まだ完璧にはできてないんですが、自分的には全部、落ち着いてきたんですよ。30歳過ぎて、やっとね。

 そういう想いがあったからなのか、この病気になった時も、なんか悲観的にならなかったんですよ。僕もそれこそ、真面目に生きてきたほうではないんです。警察に捕まったりはないですが、女遊びをしたり、若い時にヤンチャをして、すごく人を傷つけてきたって思ってる。やっぱり、すごく後悔があるんですよ。

 だから病気が見つかった時、因果応報じゃないけれど、自分がやったことが返ってきたと思ったんです。それが返ってないと、僕は結局、やりっぱなしの人生じゃないですか。いいことも悪いことも返ってくるほうがいいし、自分の人生を振り返った時、やっぱりしんどいことや失敗からのほうが成長できた。

 だから、がんと闘病してる今は、僕としては学び。やっぱりがんにならないと、がんになった人の気持ちはわからないし、抗がん剤の苦しさも知らない。もちろん、全部わかったわけじゃないですよ。でも、少しはわかる体験をできているわけですから、たぶん、俺、病気してよかったんです」

 すごい考え方ですね──ふと、そんな言葉を漏らすと、「結局、今、僕にできることって、朝、腕を出してそこに点滴を入れてもらうことだけですけどね」と、賢太さんは事もなげに言った。

「闘病生活を公開することで、数秒でもいいから人に元気を与えたい」という彼の願いの根源には、やはり、家族への強い想い......あえて言葉にするなら「愛」があるようにも感じられた。

 インタビュー後半では、そんな賢太氏が語る「兄・ダルビッシュ有」像や、その関係性をお届けする。

◆ダルビッシュ賢太・後編>>兄・ダルビッシュ有を語る「メディア嫌いになったので、世間に伝わってこなかっただけ」


【profile】
ダルビッシュ賢太(けんた)
1992年1月19日生まれ、大阪府羽曳野市出身。イラン人の父と日本人の母を持ち、3人兄弟の三男として生まれる。長男はサンディエゴ・パドレス所属のダルビッシュ有、次男は元総合格闘家のダルビッシュ翔。2009年から「KENTA」の芸名で俳優活動をはじめ、その後パーソナルトレーナーに転身。2022年に精巣がんが見つかる。身長176cm。

プロフィール

  • 内田 暁

    内田 暁 (うちだ・あかつき)

    編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。

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