WシリーズMVP投手が示したトミー・ジョン手術決別のヒント (2ページ目)

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • 田口有史●写真 photo by Taguchi Yukihito

 それでいて、打たせてとる投手かと言えば、決してそうではない。7割程度の力で投げながら、ベストボールは高めのストレート。平均93~94マイル(約149~150キロ)のスピードボールでナ・リーグ4位の219三振を奪う本格派なのである。現在、レギュラーシーズンで4年連続の2ケタ勝利と投球回200イニング以上をクリアしているバムガーナー。そんな貫禄のピッチングを見せている彼だが、実はまだ25歳。限りない未来を感じさせる投手なのである。

 昨今のメジャーリーグは、トミー・ジョン手術を受ける投手が著しく増加し、さらに若年化している。この問題を調査したアメリカスポーツ医学研究所の調査担当医師であるグレン・フレイジック氏は、「常に全力投球をすべきではない。プロの投手の本質はスピードガン表示ではなく、走者を出しても得点を与えないことだ。そこに目を向けるべきだ」というレポートを提出した。

 筋肉や関節の柔らかさ、さらに体格など、バムガーナーに恵まれた要素は多くあるにせよ、全力で腕を振らずとも打者を封じるための技術向上が、これからの投手に求められるであろう。

 決して全力投球をしないバムガーナーのしなやかで滑らかな腕の振り。それでいて打者を圧倒する投球こそ、近代野球における投手の理想像ではないだろうか。ワールドシリーズのバムガーナーのピッチングを見て、トミー・ジョン手術と決別するためのヒントが隠されていると感じた。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る